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この記事で分かること
| 対象 | パイロットを目指す大学生・高校生 |
| 難易度 | ★★☆(受験を具体的に考えたい人向け) |
| 所要時間 | 約8分 |
| 読むと分かること | ①出願資格と選抜の3段階 ②正式な科目(英語+総合)と倍率の読み方 ③学費の全体像と準備の順序 |
はじめに
パイロットになる道を調べ始めると、「航空大学校」という名前にたどり着く人は多いと思います。国が運営する操縦士の養成機関で、費用を抑えてプロを目指せる道として知られています。でも、いざ受けようと思うと「倍率10倍超って、自分でも受かるのかな」「数学や物理を独学しないといけない?」「お金はいくらかかるんだろう」——と、確認したいことが次々に出てくるかもしれません。
情報を探しても、サイトによって書いてあることが少しずつ違ったり、古い数字が混ざっていたり。かえってモヤモヤしてしまうこともあります。
読み終えるころには、出願できる条件、選抜の3つの段階、第一次試験の正式な科目、そして学費の全体像を、公式の情報にそって一度並べ直せます。「倍率11倍」という数字の見方と、自分なら何から確かめていくかの順番も、少し考えやすくなると思います。
大学2年生の暁も、最初は「倍率を見ただけで無理そう」と感じていました。でも、条件や試験の中身を一つずつ分けて見ると、「無理そう」という気持ちの横に、「先にここを確認しよう」が少しずつ出てきます。今日は暁と一緒に、一つずつ確かめていきます。
結論(先に一言)
航空大学校は、大学に2年以上通って62単位以上を取っていれば受けられる、国の操縦士養成機関です。選抜は「英語+総合」の学科(第一次)、身体検査(第二次)、面接と操縦適性(第三次)の3段階。倍率はおよそ11倍ですが、受かる人は特別な才能があるというより、準備の順序が違うことが多いです。学費は入学料と授業料で約509万円、それとは別に生活費などがかかります。
航空大学校とはどんな学校か
航空大学校は、宮崎県に本校を置く国の操縦士養成機関です。毎年の定員は飛行機操縦科で108名。入学すると、約24か月(2年)かけて、次の4つの課程を順番に進みます。
- 宮崎学科課程(座学)
- 帯広フライト課程(単発機の操縦)
- 宮崎フライト課程(単発機の操縦)
- 仙台フライト課程(多発機の操縦)

▲ 入学から卒業まで、座学と3つのフライト課程を順に進む。卒業は事業用操縦士・計器飛行証明をめざすスタート地点。
卒業までに、事業用操縦士や計器飛行証明といった、エアラインで働くための土台となる資格・証明の取得を目指します。学費を国が支えている分、私立大学の操縦コースなどと比べて費用を抑えやすいのが大きな特徴です。
少し紛らわしいところですが、航空大学校は学校教育法上の「大学」ではありません。ここで学んだ単位が、ほかの大学の単位として認められるわけでもありません。「大学」という名前ですが、操縦士を養成する専門の機関、とイメージしておくと近いです。
出願資格と選抜の3段階
出願できるのは、その年度の生年月日の範囲に入っていて、次のいずれかに当てはまる人です。
- 4年制大学に2年以上通い、62単位以上を取っている人
- 短期大学・高等専門学校を卒業した人
- 専門学校で専門士・高度専門士の称号を得た人
- 入学の年の3月末までに、上のどれかになる見込みの人
「大学を卒業してから受ける学校」と思われやすいのですが、4年制大学なら2年生を終えて62単位以上そろえた時点で、受験資格を満たします。暁のように「大学に通いながら受ける」人が多いのは、このためです。
年齢は「何歳以下」という書き方ではなく、募集要項ごとに生年月日の範囲で決まります。年度によって少しずつずれるので、受験を考える年の要項で見直しておくとよさそうです。あわせて目を通しておきたい注記がひとつ。過去に第二次試験の身体検査B(脳波検査)で不合格になった人は、出願できないと明記されています。
そして選抜は、3つの段階を通して行われます。

▲ 学科に加えて身体面や操縦適性も、3段階に分けて確認される選抜。
- 第一次試験:英語と総合(令和9年度からCBT方式。全国のテストセンターのパソコンで受けます)
- 第二次試験:身体検査A(心理適性検査を含む)・身体検査B(脳波)
- 第三次試験:面接と、飛行訓練装置を使った操縦適性検査
CBTになったことで、手続きがひとつ増えました。書類を出しただけでは受験できず、受験番号が届いたあとに会場を予約して検定料を払うところまでが出願です。会場には定員があるので、早く動いた人から席が埋まっていきます。
学科だけでなく身体面や適性も見る——これは航空大学校に限らず、多くのパイロット養成ルートに共通しています。ANAグループの自社養成では選考の早い段階でパソコンによる航空適性検査があり、空間認識やマルチタスク、反応速度などを見ることが公表されています。JALも飛行適性検査と航空身体検査を選考に置いていますし、東海大学や崇城大学の操縦学科では、出願の時点で第1種航空身体検査基準に「適合」した書類が求められます。自社養成それぞれの応募資格や選考の時期は #103 にまとめてあります。航空大学校の場合は、学科・身体検査・面接と操縦適性が三段階に分かれているので、準備も分けて考えやすい形になっています。
なお、以前は身長158cm以上という条件がありましたが、令和8年度の募集からこの要件はなくなりました(第三次で、通常の姿勢で操縦できるかを確認する検査は残っています)。国土交通省が2025年2月にまとめた女性活躍推進の議論を受けた変更で、10年後に操縦士・整備士の女性比率を10%へ、という目標も一緒に掲げられています。
女性の志願は、実際に増えています。航空大学校の女性志願者は平成27年度の22人から、令和6年度は96人(志願者の7.9%)へ。入学者に占める割合はまだ2〜6%台で動いていますが、志願そのものは10年で4倍を超えました。きっかけとしてドラマの名前を挙げる声もよく聞きます。国土交通省の2024年の調査でも、女性の客室乗務員の35%、整備を学ぶ女子学生の36%が、この仕事に関心を持った入口として「映画・ドラマ」を挙げていました。作品ごとの効果を数字で追えるわけではありませんが、画面の向こうから入ってくる人は、たしかにいるようです。
女性専用の枠や男女別の定員は、いまのところありません。学校側も「受験科目及び身体検査とも、性別による差はございません」と説明しています。国土交通省の会議では女性枠の案も出ましたが、令和9年度の募集要項には入っていません。
倍率と科目のリアル
まず倍率。よく「約11倍」と言われますが、実は「出願倍率」と「受験倍率」の2つがあります。
| 入学試験年度 | 定員 | 出願者数 | 第一次受験者数 | 最終合格 | 出願倍率 | 受験倍率 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 令和7年度 | 108名 | 1,192名 | 1,147名 | 108名 | 11.0倍 | 10.6倍 |
| 令和8年度 | 108名 | 1,208名 | 1,153名 | 108名 | 11.2倍 | 10.7倍 |
「出願倍率」は申し込んだ人ベース、「受験倍率」は実際に第一次試験を受けた人ベースの数字です。毎年50人前後が、申し込んだものの当日は受けていません。どちらで見ても、簡単な試験ではありません。ただ「11倍」という一つの数字には、申し込んだあと受けにこなかった人まで分母に入っています。
次に科目。令和9年度の募集から、第一次試験はCBT(会場のパソコンで受ける方式)に変わり、出題範囲も書き直されました。
| 科目 | 時間 | 配点 | 主な内容 |
|---|---|---|---|
| 英語 | リスニング約20分+リーディング65分 | 100点 | リスニング/読解・語彙・熟語(リスニングを終えるとリーディングへ進み、戻れません) |
| 総合 | 110分 | 250点 | ①判断・処理能力(規則性・空間認識・資料読取)②数学・物理・地学 |
第一次試験が「数学」「物理」ではなく 「英語」と「総合」の2科目 である点は、以前から同じです。令和9年度から見直されたのは、「総合」の中身のほうです。
| 教科 | 令和9年度からの範囲 |
|---|---|
| 数学 | 数学I(データの分析を除く)、数学II、数学A(図形の性質のみ)、数学C(ベクトルのみ)。数学IIIと数学Bは対象外 |
| 物理 | 物理基礎、物理(原子を除く) |
| 地学 | 地学基礎(地球の環境のみ)、地学(大気の構造と運動のみ) |
以前は「数学(数と式、二次関数……ベクトル等)」「自然科学(気象、力学……等)」と単元を並べる書き方で、科目名の線引きがありませんでした。実際、令和6年度の問題には区分求積法のように数学III相当と読めるものも混ざっています。それが、いまは学習指導要領の科目名で範囲が切られています。
もうひとつ大きいのが、「時事問題を含む社会常識」が出題範囲から外れたこと。以前は、公式に公開されている令和4年度の問題を見ると、SDGsの17ゴール・169ターゲット、eスポーツやショールーミングといった言葉の意味、改正道路交通法(第二種免許の受験資格、高齢運転者の運転技能検査)、科博廣澤航空博物館のある県……といった問題が並んでいました。こうした時事を広く追う学習は、令和9年度の出題範囲からは外れています。
入口としては、公式の過去問を一度眺めてみると、問題の雰囲気をつかみやすいと思います。航空大学校は第一次試験の問題を公式サイトで公開していて、英語は10年度分ほど、総合もPart IIが並んでいます(判断・処理能力にあたるPart Iと、英語の長文は載っていません)。公開されているのは範囲が変わる前の問題なので、社会常識まで解ききらなくて大丈夫です。最初は、時間の感覚と問われ方の手ざわりをつかむくらいの使い方が合いそうです。
「文系だから無理かも」と感じている人もいるかもしれません。学校の案内には人文系の学部から入った在校生が載っていますし、Q&Aでも経済・教育・法・外国語・人間科学などの出身が並んでいて、「どの大学・学部が有利ということはない」と説明されています。数学IIIと数学Bが対象外になったぶん、少なくとも学習範囲の見取り図は、以前より描きやすくなっています。
なお、令和10年度の募集要項はまだ公表されていません(2026年8月末の時点)。ここに書いた範囲や時間は令和9年度のものなので、実際に受ける年の要項で最後に確かめてもらえたらと思います。
学費と、受かる人の準備の順序
学費は、入学料と4つの課程の授業料を合わせて、約509万円(2026年8月時点の公表額)。ただし、これで全部ではありません。
- 入学料・授業料:約509万円
- 寄宿料:月1,500円
- 別途:食費(平日1日あたり約2,130円が目安)、光熱水費、制服代(約9万円)、国家試験の受験費用、身体検査の費用(1回約5万円)、宮崎・帯広・仙台の課程間の移動費 など

▲ 入学料と授業料の約509万円に加え、生活費・受験関連・課程間の移動費も別に見積もっておく。
約509万円は授業料などの大きな目安で、実際の資金計画では、生活費や移動費、資格試験の費用も別に考えることになります。並べてみると、総額の感覚がずれにくくなります。人数に限りはありますが、月8万円または3万円を借りられる奨学金の制度も用意されています。
そして、これは私自身の話なのですが、全部を同時に準備しようとしていた時期は、かえって手が止まりました。学科も身体検査も面接もまとめて何とかしようとするより、先に確認できることから手をつけたほうが、気持ちも現実的になっていった気がします。
私の場合は、理系だったので学科は高校からの延長で足りました。そのぶん時間を回したのが、身体検査と面接です。とくに身体検査に向けては、毎日30分弱のランニングと、生活リズム、食事を整えることを続けていました。派手なことは何もしていません。というより、何をどこまでやれば足りるのか分からなくて、毎日できることに戻るしかなかった、というほうが近いです。ただ航空身体検査で見るのは、睡眠や血圧、体重といった普段の状態です。直前に絞ったり詰め込んだりするより、この地味な積み上げのほうが、私には合っていました。
学科のほうは、まず過去問を見て、いまの自分との距離を測るところから始めました。私は理系だったのでそれ以上のことはしていないのですが、文系だった人のなかには、航空大学校の受験に特化した講座に通っている人もいました。科目単位の数万円から、通年だと30万〜70万円台まで幅があります。最近は「AIに聞きながら進めた」という合格者の話も耳にするようになりました。ただ、AIは範囲や基準を取り違えて答えることがあるので、募集要項と公式の過去問を横に置いて、答えそのものより「なぜそうなるのか」を説明してもらう相手として使うくらいが、私には扱いやすかったです。
私にとって、適性検査は正直いちばん対策しづらいところでした。私はマルチタスクに慣れておきたくて、飛行機のシミュレーションゲームをやっていました。エアラインの自社養成でも、適性検査で見る力としてマルチタスクは公表されているので、方向としては外していなかったのかなと思います。ただ、やってみて強く残ったのは、速く正確にこなすことと同じくらい、一度ずれたあとにどう立て直すかも見られていそうだ、という感覚でした。ずれに早く気づいて、慌てて大きく戻さず、落ち着いて目標へ戻す。練習のときから「気づいて、戻すところまで」を一セットにしておくと、本番で一度ミスしたときの焦りは少し減るかもしれません(採点の観点そのものは公表されていないので、あくまで受けた側の実感です)。
まとめ
ここまでの話を、もう一度短く並べるとこうなります。
- 航空大学校は大学2年・62単位以上で受けられる国の操縦士養成機関。定員108名・約24か月・4課程。
- 選抜は3段階:第一次「英語+総合」/第二次「身体検査A・B」/第三次「面接+操縦適性」。学科以外にも確認される項目がある。
- 第一次の正式科目は「英語」と「総合」。数学・物理は総合の中に含まれる。
- 倍率はおよそ11倍(出願倍率と受験倍率がある)。身長158cm要件は令和8年度で撤廃された。
- 学費は入学料+授業料で約509万円。生活費・移動費・資格試験費などは別に見込むことになる。奨学金の制度もある。
eVTOL時代ではどう変わるか
空飛ぶクルマ(eVTOL)の運航制度や必要な資格は、これからも変わっていく可能性があります。ただ、気象や航法、CRM、運航判断といった基礎を学ぶ意味が薄れるわけではありません。新しい分野に関心がある人にとっても、既存の航空運航を知っておくことは、これから固まっていく制度を読む手がかりになりそうです。
30秒クイズ・考える問い
頭の整理に一問どうぞ。
Q. 航空大学校の第一次試験は2科目です。その正式な科目名は、何と何でしょうか?
答えを見る
「英語」と「総合」です。「数学」「物理」という独立した科目はなく、数学・物理・地学は「総合」の中に含まれます。募集要項でも「英語+総合」の2科目として書かれているので、その形で覚えておくと、科目表とのずれが起きにくくなります。
考える問い:英語・総合・身体検査・費用のうち、いまの自分がいちばん先に確認しておきたいのはどこでしょうか。
