日本の空飛ぶクルマ事業者まとめ|ANA・JAL・商社・鉄道は誰が何を担うのか

この記事で分かること

対象 空飛ぶクルマや将来の操縦に関心がある中高生・大学生
難易度 ★☆☆(予備知識なしで読めます)
所要時間 約7分
読むと分かること ①日本の主要事業者の役割分担 ②機体・地域・商用化の目安 ③万博2025で実際に起きたこと

はじめに

「空飛ぶクルマ」というニュース、ここ数年でぐっと増えましたよね。ANAやJAL、丸紅に住友商事、Osaka MetroやJR東日本……名前だけが先に増えて、どの会社が何をしているのかは見えにくいままです。

しかも2025年の大阪・関西万博では「空飛ぶクルマが飛ぶ」と話題になったのに、実際にはお客さんを乗せて運賃をもらう便は走りませんでした。「飛ぶ」と聞いていたのに商用の便ではなかった——この違いが分かりにくかった人もいるのではないでしょうか。

会社名を追う前に、「機体をつくる係」「運航する係」「街とつなぐ係」の3つに分けてみます。この3つで見ると、いつ・どこで・どの機体が動きそうかの目安も、万博で何が飛んで何がまだ始まっていなかったのかも、同じ並びの上で追えます。操縦や運航はもちろん、機体の開発や街づくりのほうに関心がある人にとっても、自分の興味をどこに置くか考える材料になるかもしれません。

以前、空港で働く先輩に「空飛ぶクルマって、結局だれが操縦するんですか」と聞いたことがあります。返ってきたのは機体の話ではなく、「たぶん、いまの航空会社の運航のしくみがベースになるよ」という一言でした。その一言を手がかりに、日本の座組みを見てみます。

結論(先に一言)

日本の空飛ぶクルマは、いまは「機体をつくる会社」よりも、「運航・路線・街のインフラを担う既存の大企業(航空会社・商社・鉄道)」が手を組んで座組みをつくっている段階です。

2025年の万博は、商用サービスの開始ではなく、機体を実際に飛ばして見せる「デモ飛行」の場でした。国の計画でも、商用運航はまず一部の地域から2027〜2028年ごろに、というのが今の目安です(確定した就航日ではありません)。

事業者を一望|まず早見表で全体像

日本で空飛ぶクルマに取り組む主な事業者を、「どの機体と組んでいるか」「どの地域を想定しているか」「商用化はいつごろか」で並べてみます。

事業者 組む機体(メーカー) 想定する地域 商用化の目安
ANAホールディングス Joby S4(米Joby・操縦士1+乗客4) まず東京 → 関西圏 → 全国へ 2027年度以降を視野
JAL・住友商事(合弁ソラクル) Midnight(米Archer・操縦士1+乗客4) 大阪・関西 → 東京圏 2028年度以降を目標
丸紅 HEXA(米LIFT・1人乗り) 大阪を起点に検証 実証を継続中(開始時期は未公表)
SkyDrive(国産・自社開発) SD-05(3人乗り) 大阪・愛知など 2028年を目標
鉄道会社(Osaka Metro・JR東日本ほか) SkyDriveへ出資・提携(自社では運航しない) 大阪港・東京の臨海部など 離着陸場と乗り継ぎを整える役

※商用化の目安は各社の事業計画にもとづくもので、認証の取得や運航の許可を保証するものではありません(確定した就航日ではなく、2026年8月時点の公表内容です)。
※JR西日本については、2026年8月時点で空飛ぶクルマ事業への参画を示す公式発表を確認できませんでした。SkyDriveと連携している「西日本」の交通インフラ事業者は、NEXCO西日本(高速道路のSA・PA活用)です。

表を眺めて気づくのは、機体そのものをつくっているのはSkyDriveくらいで、多くは海外メーカーの機体と組んでいる、ということ。そして各社が力を入れているのは「どこで、どうやって飛ばすか」の側です。

ややこしいのは、出資・機体の導入・ポートの整備・実際の運航が、同じ会社に集まるとは限らないことです。名前が並んでいても、操縦席にいる会社とは限らない。私も発表資料を追うほど、結局だれが最初に乗客を運ぶのか、分からなくなる場面があります。

最近とくに目を引くのは、表のいちばん下——鉄道会社が次々と名乗りを上げていることです。SkyDriveには近鉄グループ・Osaka Metro・JR東日本・JR九州の4社が出資していますし、東京都のプロジェクトには西武ホールディングスや京王電鉄も入っています。ただし、鉄道会社の役割を「自ら機体を運航する会社」と捉えると、実態からは離れます。人を有償で運ぶには、型式証明を取った機体をそろえ、耐空証明を受け、航空運送事業の許可まで通すことになります。航空の外にいる会社がこの体制を一から整えるのは、簡単なことではないと思います。実際、万博でJoby S4を飛ばしたときも、許認可を取って運航そのものを担ったのはJoby自身でした。

その分担は、万博の会場にそのまま出ていました。会場のポート(EXPO Vertiport)はオリックスが整備・運営し、そこでSkyDriveのSD-05、ANA×JobyのS4、丸紅×LIFTのHEXAが飛んでいます。いっぽう会場から少し離れた大阪港の中央突堤には、Osaka Metroが「大阪港バーティポート」をつくり、9月にSkyDriveがデモフライトをしました。飛ばす会社と、降りたあとを引き受ける会社。あの日、その2つは文字どおり別の場所に立っていました。

南雲

南雲
出資している会社と、実際に操縦席にいる会社は、別なんですね。
スカイ先生

スカイ先生
たしかに、機体のスペック比べになりがちだよね。だれが運航して、だれが地上をつなぐか——そこを分けて眺めると、会社ごとの役割がつかみやすいかもしれないね。

航空会社(ANA・JAL)が運航側に立つ理由

航空会社が運航側にいるのは、機体を用意するだけでは足りないからです。

空飛ぶクルマは、機体さえ完成すれば飛べる、というものではありません。人を安全に運ぶには、天候の判断、整備の管理、乗務員の訓練、遅れや欠航への対応まで、毎日の運航を回す力がまるごと要ります。これは、航空会社が旅客運航のなかで長く積み重ねてきた領域です。

ANAは米Jobyと組み、Joby S4という5人乗り(操縦士1名+乗客4名)の機体で、まず東京から、その後に関西圏、さらに全国へと段階的に広げる構想を描いています。JALは住友商事と「ソラクル」という会社を立ち上げ、米ArcherのMidnight(こちらも操縦士1名+乗客4名)で大阪・関西からのスタートを目指しています(当初はVolocopterの機体を想定していましたが、途中でArcherへ切り替わりました)。

機体は海外メーカー、運航は日本の航空会社という分業を示す構造図。左にJoby・Archer・LIFT(海外)、右にANA・JAL(運航)を矢印でつなぐ

▲ 機体は海外から導入し、運航は「安全に毎日飛ばす」ノウハウを持つ航空会社が担う。

西風

西風
いま練習していることの中で、eVTOLの運航にも持っていけるものはあるんでしょうか。

eVTOLは小型で、飛行時間も短い。だから運航も軽くなりそうに見えます。私の実感では、むしろ逆かもしれません。初期にとくに目立ってくるのは、運航をマネジメントする力だと思っています。1回の飛行が短いぶん、離陸が終わったらすぐ着陸のことを考えはじめる。しかも低い高度を飛ぶので(万博でのJoby S4のデモも、最大で約300mでした)、何かあったときの行き先と手順を常に頭に置いておかないと、その場では間に合わない。無線でのやりとり、天候を読む力、決められた手順を守る姿勢——このあたりは、電動になっても自動化が進んでも、すぐ不要になるものではないと感じています。

逆に「ここは変わりそうだな」と思うのは、自動車の電動化・自動化と似た道をたどるのではないか、というところ。充電設備の整備が追いつかない。自動化は段階的にしか入らない。いったんハイブリッドへ戻る。このあたりの進み方は、自動車ですでに起きたことと重なります。免許のあり方は、自動車のほうがまだ定まっていません。空のほうはむしろ先に動いていて、米国では2025年1月にpowered-lift(空飛ぶクルマを含む区分)の操縦士資格の規則が発効し、欧州も型式限定のしくみを規則化しました。日本は、いまの自家用・事業用操縦士を入口に、機体ごとの型式限定を付ける方向で検討が進んでいます。

「自動化が進んだらパイロットはいらなくなるのか」。ここは正直、私にも予想が難しいところです。技術的に可能でも、それ以外のところでハードルが高いことは多いからです。操縦の仕事がどう変わるかを、簡単に前向きだと言い切ることもできません。それでも、完全に自動化できる安全性が認められて、だれもが自由に空を飛べる時代が来るなら、パイロットである私も、その未来を願います。私たちは、パイロットでなかったころから「空を飛びたい」の一心でここまで来ました。その気持ちは、いまも私たちパイロットだけのものではないと思っています。だから仮に操縦の仕事が減ったとしても、「同じ空を飛べる人が増えてよかった」——そう受け取れる自分でいたいと思っています。

スカイ先生

スカイ先生
機体が変わっても、気象や手順、安全の考え方まで全部が新しくなるわけではなさそうだね。

商社・鉄道(丸紅・住友商事・Osaka Metro)の役割

航空会社のとなりで、商社と鉄道会社も大切な役割を担っています。

商社は、海外メーカーの機体を日本に持ち込み、事業として成り立たせる「橋渡し役」です。丸紅は子会社の丸紅エアロスペースを通じて米LIFTのHEXA(1人乗り)を扱い、大阪を起点に飛行の実証を重ねています。住友商事はJALと組んでソラクルを運営し、機体の導入から運航までを事業として形にしようとしています。

鉄道会社の立ち位置は、少し毛色が違います。Osaka MetroやJR東日本が前に出るのは、機体の操縦席よりも、発着地と既存の交通をつなぐ地上側です。Osaka Metroは大阪港に離着陸場を整備して地下鉄やオンデマンドバスとつなぎ、JR東日本は東京都のプロジェクトで沿線・駅との接続を検討する立場です。発着地だけ整っていても、そこから駅や目的地へ移れなければ、乗る側にとっては使いにくい。鉄道会社が関わるのは、まさにその部分です。

空飛ぶクルマの3つの係を示す構造図。機体をつくる係(海外メーカー中心)・運航する係(航空会社)・街とつなぐ係(鉄道・自治体)が並び、そろって「乗れるサービス」になる

▲ 機体・運航・街との接続がそろって、はじめて「乗れるサービス」に近づく。

スカイ先生

スカイ先生
どれか一社を追いかけるより、機体・運航・街との接続を別々に見たほうが、ニュースの中身はつかみやすいかもね。

万博2025は何だったのか、これからどうなるか

万博の話でとくに混ざりやすいのが、「実際に飛んだこと」と「商用サービスが始まったこと」の違いです。

2025年の大阪・関西万博では、たしかに空飛ぶクルマが飛びました。丸紅のHEXA、SkyDriveのSD-05、そしてANA塗装のJoby S4が、会場の周辺で実際に空を飛んで見せています。ただ、これらはすべて「デモ飛行」——お客さんを乗せて運賃をもらう「商用の便」ではありませんでした。JALと住友商事のArcher Midnightにいたっては、実物大の模型の展示と体験にとどまっています。

「機体が飛んだ」ことと、「航空機として国のお墨付き(認証)を得て、事業として人を運べる」ことは、別の段階です。この2つを分けておくと、次に「空飛ぶクルマが飛んだ」という見出しを見たとき、それがデモなのか商用なのかを確かめやすくなります。

飛行機を事業として飛ばすまでには、いくつかの認証や運航上の準備を、順に通っていくことになります。どの基準がかかるかは、そもそも制度のうえで何に分類されるかで変わります。そこは #8 で整理しています。

事業として人を運ぶまでの5段階を示すフロー図。型式証明→製造証明→耐空証明→運航の承認→離着陸場・空域の順。型式証明の申請受理は5件でスタート地点

▲ 型式証明はいちばん入口。申請受理5件は「審査の開始」であって「合格」ではない。

  • 型式証明:その「型(設計)」が安全の基準に合っているか
  • 製造証明:設計どおりに安定して量産できる体制か
  • 耐空証明:一機一機が、実際に安全に飛べる状態か
  • 運航の承認:運ぶ会社の組織・整備・訓練・安全管理が整っているか
  • 離着陸場・空域:発着する場所や、空の交通整理が用意できているか

このうち、設計の安全性を審査する型式証明について、国土交通省が2026年8月までに受け付けた申請は5件です(SkyDrive SD-05、Joby S4、Volocopter VoloCity、Vertical VX4、Archer Midnight)。ただし「申請を受け付けた」のは審査のスタート地点であって、「合格した」という意味ではありません。

国の計画(2026年3月に改訂されたロードマップ)では、2027〜2028年ごろにまず一部の地域から商用運航を始め、2030年代に交通管理や遠隔操縦、その後に自動運航へ……という段取りが示されています。ロードマップが想定しているのは全国同時の開始ではなく、特定の地域・特定の便から少しずつ広がっていく形です。

南雲

南雲
万博で飛んだのは大きな一歩だけど、ゴールではないんですね。
スカイ先生

スカイ先生
そうだね。次のニュースでは、「何が飛んだか」に加えて、「だれが、どんな許可と体制で運航するのか」も気になるところだね。

まとめ

  • 日本の空飛ぶクルマは、「機体をつくる会社」より「運航・路線・街のインフラを担う大企業(航空会社・商社・鉄道)」が座組みをつくる段階。
  • 機体は海外メーカーが中心で、SkyDriveが国産で挑戦中。ANAはJoby、JAL・住友商事はArcher、丸紅はLIFTと組んでいる。
  • 2025年の万博で飛んだのは事実。有償で乗客を運ぶ商用運航の開始とは、別の出来事だった。
  • 商用化の目安は一部地域で2027〜2028年ごろ(確定した就航日ではない)。型式証明の申請は5件で、いずれも審査の途中。
  • 電動化・自動化が進んでも、初期の商用運航では、いまの航空運航に近い安全管理や手順が土台になりそう。だから操縦や運航の基本は、急に不要になるわけではない。

eVTOL時代ではどう変わるか

いま操縦を学んでいる人、これから目指す人にとって、この流れはどんな意味を持つのでしょうか。

ニュースでは機体の形や自動化が目立ちます。人を運ぶサービスとして見るなら、運航や安全管理も同じくらい大きな要素になります。初期の商用運航では、いまの旅客機で重ねてきた安全管理や、乗務員どうしの連携(CRM)、決められた手順を守る運航が、かなりの部分で参照されることになりそうです。機体が新しくなっても、パイロットに求められるものが総入れ替えになるわけではなさそうです。

資格や運航の仕組みは、これから変わっていくでしょう。それでも気象、手順、安全管理をどう考えるかは、新しい機体に移っても何度も戻ってくる話になります。

30秒クイズ・考える問い

ニュースを読むときに迷いやすい点を、ひとつだけ。

Q. 2025年の大阪・関西万博で、空飛ぶクルマは実際に飛びました。では、あれは何という位置づけの飛行だったでしょうか?

答えを見る

**デモ飛行**です。丸紅のHEXA、SkyDriveのSD-05、ANA塗装のJoby S4が実際に飛びましたが、お客さんを乗せて運賃をもらう「商用の便」ではありませんでした。「機体が飛ぶこと」と「事業として人を運べること」は別の段階です。次に「飛んだ」というニュースを見たら、デモ飛行なのか商用運航なのか、見分ける手がかりにしてみてください。

考える問い:もしあなたが将来この分野に関わるなら、「機体をつくる係」「運航する係」「街とつなぐ係」のうち、どこで力を発揮したいですか?

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