管制圏で無線が通じないとき、パイロットはどう動く?焦らず切り分ける基本の順番

管制圏で無線が通じないとき、パイロットはどう動く?焦らず切り分ける基本の順番

この記事で分かること

対象 パイロット志望者・訓練を始めたばかりの人
難易度 ★☆☆(はじめの一歩)
所要時間 約7分
読むと分かること ①「通じない」には”一時的な行き違い”と”本当の故障”の2種類があること ②それぞれで変わる対処の順番 ③7600・灯火信号という備え


はじめに

「無線、ちゃんと話せるだろうか」。訓練を考え始めたときや、初めて交信を聞いたときに、一度はそんなふうに思ったことがあるかもしれません。まして「もし管制圏で返事がなかったら…」と想像すると、何から確かめればいいのか迷いますよね。

困るのは、返事がないときです。周波数の行き違いなのか、こちらの操作なのか、それとも本当に無線が使えないのか。その場では、同じ「通じない」に見えてしまいます。実際の現場では、この「通じない」には性質のまったく違う2種類があって、まずそこを分けて考えます。

このあと出てくるのは、返事がないときに最初に見直す場所と、確かめても通信が戻らないときに残っている手段です。「呼び直せばいい場面なのか、故障として動く場面なのか」。その分かれ目を考えるときの手がかりになればと思います。

ちなみに私自身、訓練生のころに教わって今も忘れられない言葉があります。ある先輩機長の、通信が全部遮断されても一人で安全に降ろせるか——という”最悪想定”の話。それは記事の後半で紹介します。

結論(先に一言)

無線が通じないときの要は「原因を切り分けて、決められた手順で”安全な側”を選ぶ」ことです。

多くは周波数や言い回しを確かめて交信をやり直せば解決します。そして本当に故障したときのために、トランスポンダのコード7600、管制塔からの灯火信号、通信機が故障したときの飛び方の決まりという”備え”が用意されています。

「無線が通じない」には2種類ある

「通じない」と感じたとき、原因をたどってみると、無線機の故障そのものより、周波数が1つずれていた、音量が絞られていた、他機の交信と重なって自分の声が入らなかった——そんな”一時的な行き違い”だった、ということがよくあります。

ただ、同じ「通じない」でも、送信か受信が片方でもできなくなる”本当の故障”は、やることがまったく変わります。だから、まずはこの2つを分けて考えます。

「通じない」を一時的な行き違いと本当の故障に分ける図。どちらでもまず機体を安定させて飛ばし、行き違いなら周波数・音量・接続を確かめて短く呼び直す。送信か受信が片方でもできず、確かめても戻らないときは故障時の手順へ。

▲ 返事がないだけでは、故障とは限らない。まず周波数・音量・接続を確かめる。

たとえば訓練生の暁さん(仮)。初めてのソロを控えて管制圏の手前で呼びかけても、返事がない。少し焦る場面です。暁さんは、いったん表示に視線を移しました。「周波数、合っているかな」。この時点では、返事がない理由はまだ分かっていません。

私も訓練生のころ、この”行き違い”は何度も経験しました。小数点以下の数字が違うだけの別の周波数に話しかけていて「違うよ」と指摘されたこともあれば、ヘッドセットのプラグが機体側のジャックにきちんと差し込まれていなかったこともあります。どれも、落ち着いて確かめればすぐに戻せるものでした。

訓練中は、まわりに先輩や同期がたくさんいます。私のころは、自分や仲間に起きた行き違いを持ち寄って、「つながらないとき、何から順に確かめるか」をみんなで考えていました。先輩や同期の経験も聞いておくと、自分だけでは思いつかなかった確認の順番が増えていきます。そのうえで、確かめても本当につながらないときは、決められたチェックリストに沿って進めていきます。

「通じない」を一時的な行き違いと本当の故障の2種類に切り分ける判断フロー図。左は周波数・音量・PTTの確認、右はAviate・7600・灯火信号。

暁
暁
返事がないと、もう一度呼んでいいのか、それとも機内を見直すのか、迷ってしまいそうです。自分の側では、どこから見ればいいんですか?

一時的に通じないとき|まず試すこと

故障と決める前に、手元で見直せるところから当たります。

  • ① 正しい周波数か(表示を含めて確認)
  • ② 音量・スケルチ・ヘッドセットの接続
  • ③ マイクの送信ボタン(PTT)の押し方、別のマイクや無線機
  • ④ 他機の交信が切れるのを待って、短く呼び直す

指示の一部が聞き取れなかっただけなら、「say again(もう一度お願いします)」で十分なことがほとんどです。管制官が多忙で、まだ自分の順番が来ていないだけ、ということもよくあります。

暁
暁
でも、何度も聞き直したら、管制官の邪魔になりませんか?

聞き取れなかったときに聞き直すのは、交信の中で当たり前に求められていることです。私自身、訓練生のころから手放さずにきたのが、この say again です。よくあるのが、聞き取れなかったのに「Roger(了解)」とだけ返すこと。Roger は「あなたの送信を全部受け取りました」という意味の言葉で、復唱(リードバック)を求められた場面の答えにはなりません。分からなかったら、聞き直す。分からないまま Roger で済ませないことが、交信を安全な側に保ちます。

聞こえ具合のやりとりにも、決まった言い方を使います。管制官から「How do you read?(聞こえ具合はどうですか)」と聞かれたら、1〜5の数字で「reading you five(完全に聞こえます)」のように返すのが基本の形。現場では「loud and clear」もよく耳にします。相手の声が途切れるときは「your voice is cutting out(声が途切れています)」と伝えて聞き直します。どれも、訓練が始まればすぐに使う言葉です。

⚠ 注意

ただし、管制圏への進入許可や着陸許可のように”許可があるかどうかが安全を左右する”ことは、「聞こえた気がする」で動きません。はっきり許可を受け取れないなら、管制圏に入ることも、滑走路に入ることも始めない。ここは迷ったら止まる側です。

ふだんの交信の言い回しでは、出発準備ができたと伝える「ready」も、訓練の早い段階から使います(国際的な例文や米国では「ready for departure」)。

本当に故障したとき|7600・灯火信号・安全な着陸

確かめても通信が戻らないときは、ふだんの交信から、故障のときの手順へ切り替わります。

通信が戻らないときに動く順番の図。①まず飛ばす②通じない原因を確かめる(戻ればふだんの交信へ)③トランスポンダを7600に④灯火信号が見えたら従う⑤有視界気象状態を保って安全に着陸できる最寄りの空港等に降り、着陸後すぐ管制機関へ知らせる。

▲ どの段階でも操縦が最優先。通信が戻らないときだけ、7600から先の手順へ進む。

優先するのは、話すことより”飛ばすこと”です。姿勢・高度・見張り・地形回避を安定させる(Aviate)。無線の復旧に没頭して操縦がおろそかになるほうが、ずっと危ない。

次に、トランスポンダが使えるなら、コードを7600に設定します。これは「無線通信が故障しています」を管制に知らせる、国際的に決められた合図です(7500=不法妨害、7700=緊急事態と区別されています)。

暁
暁
7600を入れたら、そのまま降りていいってことになるんですか?

そうはなりません。7600は緊急着陸の宣言でも、進入・着陸の許可が出たことでもありません。管制が自機を見つけ、保護やブラインド送信(こちらに届く前提での一方向の送信)、灯火信号の準備を始めるための合図です。

そして管制塔からは、無線の代わりに”灯火信号(光の合図)”で指示が来ることがあります。意味は、航空機が飛行中か地上かで変わるものがあるので、表で確かめておきましょう。

管制塔からの灯火 飛行中の意味 地上の意味
連続した緑 着陸してよい 離陸してよい
点滅する緑 着陸に向けて飛行場へ戻れ(※) 地上走行してよい
連続した赤 進路を他機に譲り、場周経路を飛び続けよ 停止(または待機)せよ
点滅する赤 着陸してはならない 滑走路の外へ出よ
点滅する白 この飛行場に着陸し、エプロンへ進め(※) 出発地点へ戻れ
緑と赤が交互に点滅 注意せよ 注意せよ

表は横にスクロールできます。

※の2つは、着陸の許可そのものではありません(国の管制方式基準の注記)。基準の表では、連続した光を「不動光」、点滅を「閃光」と書きます。

取り違えやすいのは、点滅する緑と連続した緑です。飛行中の点滅緑は「着陸に向けて戻ってきなさい」という合図で、「着陸してよい」は連続した緑のほうです。

私自身は、エアラインに入ってからも無線の故障に遭ったことはありません。ただ、同期には実際に無線トラブルを経験した人がいます。とくに離着陸の前後は、さっきまで聞こえていた管制の声が途切れるだけで、見直したいことが一気に増えます。操縦、見張り、離陸や着陸の判断が重なる時間帯だからです。

エアラインでは、この時間帯は安全に関係のない会話や連絡を控える「ステライル・コックピットルール」が運航規程で決められています。私自身も、離着陸の前後は周波数が合っているか、その周波数がアクティブ(使用中の側)になっているかを見直し、聞こえ方が気になるときは管制官に「radio check」と呼びかけて、お互いの声が届いているかを確かめています。

7600や灯火信号を使う場面は、私も実機では経験がなく、シミュレーター訓練でしっかり練習するところです。手順そのものは、実際の訓練とチェックリストの中で身につけていくものです。

⚠ 注意

なお、管制圏の”手前”でまだ通信が確立できていないなら、無理に入らない。安全な場所にとどまるか、無線が要らない飛行場や代替の飛行場へ向かいます。灯火信号は「無線なしで自由に入ってよい許可制度」ではないからです。

こうした動き方には、ルール上の土台もあります。管制圏を飛ぶ航空機に「いかなるときにおいても航空交通管制機関と連絡することができる無線電話」を求めているのは、航空法施行規則第146条です。通信機が故障したときの飛び方は同じ施行規則の第206条にあり、有視界気象状態(目で見て安全に飛べる天気)なら、それを保ったまま安全に着陸できそうな最寄りの空港等に降り、すぐに管制機関へ知らせるのが基本です(計器飛行方式で飛んでいるときや雲の中では、別の手順が決まっています)。灯火信号の意味は国の管制方式基準やAIP(航空路誌)に載っていて、実際に飛ぶときは、その時点で有効なAIPとNOTAMで必ず確かめます。

無線が完全に故障したときに動く順番のフロー図。まず飛ばす→原因の切り分け→7600→灯火信号→安全な着陸の5段。

通じない前提で考える|ある機長の「最悪想定」

最後に、冒頭で触れた”最悪想定”の話を。

悪天のなかで「行くか、引き返すか」の判断が、二人のあいだで割れたときのことです。私は行けないと考え、もう一人は行けると考えていました。約15年前、私は先輩にこう教わりました——”行ける”と言った人の判断で進んだ場合の、最悪を想像してみろ、と。つまり、行けると言った本人が途中で意識を失い、通信も全部遮断され、自分一人で機体を安全に降ろさなければならない事態。それを想定してもなお自分が「行けない」と思うなら、それがベストな判断だ、という考え方です。

この話を思い出すたびに私が感じるのは、地上にいるあいだにどれだけ想定できているかで、上空での頭の整理がまったく変わる、ということです。通信が全部断たれたら、自分はどこを見て、どう飛び、どこへ向かうか。天候や位置で答えが変わる部分もありますが、地上で一度考えておいたことは、いざというときに思い出す入口になります。無線が通じないことは、めったに起きません。でも、起きない前提では考えない。

「パイロットは一生勉強」とよく言われます。運航環境も、起こりうる不安全な事例も常に更新されていて、そのたびに会社の規程や、大きな枠組みでは法令も変わっていくからです。たとえば先ほどのステライル・コックピットルールは、2025年11月に国の基準で国内の航空会社の義務として明文化されました。管制圏のある空港で離着陸する操縦士に向けた新しい訓練(技能発揮訓練)も2025年の航空法改正で決まり、2028年6月ごろから義務になる見込みです。そうした変化を追いかけるのも仕事のうちで、正直に言えば、一般的な会社員よりプライベートの時間を勉強に使う場面は少し多いと私は感じています。

暁
暁
でも、最悪のことばかり考えていたら、かえって不安になりませんか?

最悪を一度考えておくのは、通信が途切れたときに戻る場所を、先に決めておくためです。焦りは、そのときも出てくると思います。それでも、やり直し・7600・灯火信号・安全な着陸という手段を知っていれば、その場で一から答えを探さずに済みます。安全は一人で作るものではなく、管制官やまわりと一緒に作るもの。無線は、そのためのつながりでもあります。

まとめ

  • 「通じない」には”一時的な行き違い”と”本当の故障”の2種類。まず切り分ける。
  • 一時的なら、周波数・音量・マイクを確かめ、短くやり直す。聞き取れなければ say again。許可は「聞こえた気」で動かない。
  • 本当の故障が疑われたら、まず飛ばす。通信が戻らなければ7600を設定し、灯火信号が見えたら従って、安全な着陸へ。
  • 灯火信号の意味は飛行中と地上で変わる(飛行中の点滅緑は”着陸に向けて戻れ”の合図で、着陸許可ではない)。
  • 無線は管制官と一緒に安全をつくる”輪”の一部。焦っても、手順は残っている。

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eVTOL時代ではどう変わるか

空飛ぶクルマ(eVTOL)のような新しい乗り物でも、「通信が途絶えたらどうするか」は欠かせない設計のテーマです。自動化が進むと、人の声のやりとりだけに頼らない通信や、異常時に自動で安全な場所へ向かう仕組みも議論されています。

ただ、2026年10月の時点でも、「通じないときの備えをあらかじめ決めておく」という考え方そのものは、どんな乗り物でも変わりません。むしろ自動化が進むほど、”何が起きたら誰がどう動くか”をあらかじめ決めておく大切さは増していきます。

30秒クイズ・考える問い

Q1(3択) トランスポンダのコード7600が管制に知らせるものとして、いちばん近いものはどれでしょう?

  • A. 緊急着陸をすること
  • B. 無線通信が故障していること
  • C. 着陸の許可がほしいこと

答えを見る:B。7600は”無線通信が故障している”ことを知らせる合図です。緊急事態そのものを知らせるのは7700で、7600を入れても着陸の許可が出たことにはなりません。

Q2(考える問い) 飛行中に、管制塔から”点滅する緑”の灯火信号を受けました。これは「着陸してよい」という意味でしょうか?

答えを見る:いいえ。飛行中の点滅する緑は「着陸に向けて飛行場へ戻れ」という合図で、着陸の許可そのものではありません(「着陸してよい」は連続した緑)。

Q3(考える問い) 管制圏の手前で、何度呼びかけても無線がつながりません。あなたなら、まず何から確かめますか?(この記事の”切り分け”の順番を思い出してみてください)

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スカイ先生(朝霧)プロフィール

本ブログは、10年間のパイロット経験を積み重ねてきた筆者が、「誰でも飛べる」をモットーに将来パイロットになりたい学生に向けて発信しています。

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