
Contents
この記事で分かること
| 対象 | 空飛ぶクルマ(eVTOL)に興味がある人・訓練生 |
| 難易度 | ★☆☆(予備知識なしでも読めます) |
| 所要時間 | 約7分 |
| 読むと分かること | ①「管制」と「交通管理」の違い ②UTMとは何か ③U-Space(欧州の制度)とは ④有人の空飛ぶクルマは今は誰が管制するのか |
はじめに
空飛ぶクルマが街の空を何十機も飛ぶようになったら、いったい誰がぶつからないように捌くんだろう。ニュースを見ながら、そんなことを考えたことがあるかもしれません。
飛行機なら管制官が無線で指示を出している——それは何となく知っている。でも、空飛ぶクルマやドローンも、ぜんぶ管制官が一機ずつ見るのでしょうか。それとも、まったく新しい仕組みがあるのでしょうか。
このあと見ていくのは、ニュースで「UTM」「U-Space」という言葉が出てきたときに、それが無人機の話なのか、有人機の管制の話なのかを見分ける手がかりです。
パイロットの目線で見ても、いまの管制は「音声で一機ずつ」が基本で、無数の機体が同時に飛ぶことを前提にはしていません。
結論(先に一言)
空飛ぶクルマ(有人のeVTOL)は、航空法の上では「航空機」です。だから当面は、いまの飛行機と同じ“既存の航空交通管理”の枠の中で飛びます。一方、無数のドローンをデジタルに捌く新しい仕組みがUTM、それを制度として欧州がつくったのがU-Space。どちらも主に無人機のための仕組みで、有人eVTOLとの接続は「これから」の検討課題です。
「管制」と「交通管理」は、じつは別の話
「管制」と「交通管理」。似ていますが、同じ意味ではありません。
- 航空交通管制(ATC:Air Traffic Control):管制官が一機ずつに「この高度で」「この順番で」と指示を出して、機体どうしがぶつからないようにしながら、空の交通の流れを整えること。
- 航空交通管理(ATM:Air Traffic Management):もっと広い言葉です。航空交通管制をふくむ“航空交通業務”に、空域の使い方の調整や、混雑をならす調整(航空交通流管理)までを合わせた“交通整理の全体”。航空交通管制は、その中の一部です。
国土交通省の航空用語集でも、この2つは別々の項目です。
※箇条書きの2行は、正式な定義をかみくだいたものです。もとの定義は、国際民間航空機関(ICAO)の文書『PANS-ATM』(Doc 4444)などにあります。航空法には「航空交通管制区」「航空交通管制圏」といった空域の定義(第2条)や、管制の指示に従う決まり(第96条)はありますが、「航空交通管制」そのものを定めた条文はありません。
アメリカの航空当局(FAA)も、無人機向けのUTMを「航空交通業務とは別だが、それを補完する仕組み」と説明しています。航空交通業務が提供されていない空で、たくさんのドローンが安全に飛べるようにするのが、UTMの役目です。

▲ 対象・担い手・やり方を、3行ずつ見比べる図。AATMだけは、まだ構想の段階です。
いまの空には、ざっくり3つの枠組みが並び始めています。昔からある有人機のためのATM/ATC(航空交通管理/航空交通管制)、無人機のためのUTM、そして空飛ぶクルマの将来に向けて日本が描くAATMです。


UTMとは——無人機のための“デジタルな交通整理”
UTM(UAS Traffic Management/無人航空機交通管理)は、ドローンの運航者・サービス会社・航空当局が情報をやりとりして、安全で効率的な飛行を支える“協調の仕組み”です。どこか一つの「ドローン管制センター」や、ひとつのアプリを指す言葉ではありません(FAA)。
やりとりの中心は、管制官との音声交信ではなく、データのやりとりです。たとえば——

▲ 上から、機体を見分ける(①)、予定を見せ合う(②)、飛ぶ前にぶつかりを避ける(③)、飛べない空を知る(④)の順です。
- 機体登録・リモートID:誰の機体かを識別できるようにする(飛行の許可そのものではありません)。
- 飛行計画の共有:いつ・どこを飛ぶ予定かを、運航者どうしで共有する。
- 戦略的デコンフリクション:飛ぶ“前”に、計画どうしのぶつかりを見つけて、経路や時刻をずらす。
ただ、UTMにつないでも、飛行中のすべての衝突回避まで引き受けてもらえるわけではありません。飛行中に有人機を避ける手段(目視の監視員や、機体が自分で見て避ける装置)は、運航者の側で別に用意します(FAA)。
日本でも動き出しています。2026年9月16日、国が初めて「認定UTMサービス提供者(USP)」にIDを付与しました(NTTデータ、KDDIスマートドローン)。始まったのは、飛行計画の通報の手助けや、重なった計画の調整といった初期の機能です。飛行中の機体の動きをつかむ機能などは、段階的に加えていく計画とされています。
U-Spaceとは——欧州がつくった制度の枠組み
U-Spaceは、このUTMの考え方を、欧州(EU)が法律のルールにしたものです。中心になる規則(EU 2021/664)は、2023年1月26日から適用されています。
しくみをひと言でいうと、「国が空域を指定して、そこを飛ぶドローンには、認証を受けた事業者(USSP)のサービスを使うことを求める」というもの。どこをU-Spaceの空域にするかは、各国が空域のリスクを評価したうえで決めます。
その空域でUSSPが必ず提供するのが、次の4つのサービスです。

▲ 4つのうち、黄色の枠の飛行認可だけは、飛ぶ前に申し込んで受け取ります。
- ネットワーク識別:飛んでいる無人機の位置や識別情報を、必要な相手に届ける。
- ジオアウェアネス:飛べる条件や空域の制限を知らせる。
- 飛行認可(flight authorisation):飛行計画を受け付け、ほかの認可ずみの飛行と場所・時間が重ならないかを確かめて認める。
- 交通情報:近くにいるほかの機体(有人機も含む)の情報を伝えて、ドローン側の回避を助ける。
飛行認可という名前ですが、有人機が管制機関から受ける管制承認(クリアランス)とは別のものです。
このほか、気象情報や「計画どおりに飛べているか」の監視も、国が必要と判断した空域では義務にできます。
では、同じ空を飛ぶ有人機はどうなるのか。ルールでは、次のように分けています。
- 管制を受けている有人機:その動きに合わせて、管制機関がドローンの飛べる範囲を一時的に縮め、両者を分けておく。
- 管制を受けていない有人機:自分の存在を電子的に知らせ続けて、USSPが把握できる状態で飛ぶ。
有人機の管制は、これまでどおり管制機関が受け持つ。ドローンの飛行の段取りは、USSPが受け持つ。U-Spaceは、この2つをつなぐための制度です。「欧州版のUTM」と呼ばれるのは、UTMの考え方を、この役割分担の形で決めたからです。


イタリアの航空当局(ENAC)は、2026年1月1日から同国のサン・サルヴォで「欧州で初めて」のU-Spaceが運用されると発表しました(2025年12月)。規則の適用開始から、約3年たってからのことです。
有人の空飛ぶクルマは、いまは誰が管制するのか
有人の空飛ぶクルマは、誰が捌くのでしょう。
答えは——「航空機だから、いまの飛行機と同じルールの中」です。国土交通省・経済産業省の官民協議会がまとめた『空飛ぶクルマ(AAM)の運用概念(ConOps)第2版』(2026年3月27日)は、有人eVTOLを航空法上の“航空機”とし、初期の運航は既存のやり方・手順に沿って、いまの航空交通管理の枠内で行われると整理しています。当初は、有視界飛行方式(VFR)での運航が想定されています。

▲ 上の段から順に、管制の指示を受ける場面が減っていきます。
管制官の指示に従う場面は、航空法第96条が、空域と飛び方ごとに決めています。
- 航空交通管制圏(離着陸の多い空港のまわり):離陸・着陸をするときは、VFRでも管制機関に連絡して、その指示に従う。
- 航空交通管制区:計器飛行方式(IFR)で飛ぶ機体は、管制の指示に従う。VFRの機体は、特別管制空域などを除けば、原則として連絡は求められていない。
- 管制圏・管制区の外には、指示を出す管制官はいない。
指示に従っていても、機体どうしの間隔をぜんぶ管制官が受け持つわけではありません。管制官が決まった数字の間隔(管制間隔)を設定するのは、主にIFRの機体どうし(空域によっては、IFR機とVFR機のあいだも)。VFRの機体は、基本的に自分の目でまわりを見て、ほかの機体との間隔を保ちます。航空法第71条の2も、管制の指示に従っているかどうかにかかわらず、操縦する人に「他の航空機その他の物件と衝突しないように見張り」をすることを求めています。
これは、eVTOLだけの特別な話ではありません。旅客機の多くはIFRなので、「飛行機=いつも管制官に捌かれている」というイメージとは少しギャップがあるかもしれません。でも、自家用機などの小型機はVFRで飛ぶことが多く、ルールの上では空飛ぶクルマも同じ枠組みです。いまの小型機の飛び方を思い浮かべると、初期の運航のイメージがつかみやすいと思います。VFRとIFRがそもそもどう違うのかは、「VFRとIFRの違いとは?」(#5)で、図を使って整理しています。
私の場合は旅客機なのでIFRで飛んでいますが、それでも「間隔は管制官まかせ」という感覚はありません。訓練生のころから、管制間隔の基本は本当によく聞かれました。レーダーを使った水平の間隔なら、条件によって3海里(約5.6km)や5海里(約9.3km)。高さの差は1,000フィート(約300m)が基本です。こうした数字は航空局の『管制方式基準』で決められていて、空域や状況、前を飛ぶ機体の大きさで分ける後方乱気流の区分によっても変わります。
管制官がどう捌くかを考えて、「このあたりで減速したい」「このタイミングで降下を始めたい」と、こちらから早めに伝えることもあります。すると管制官は、こちらの意図(インテンション)をつかんだうえで、どの機体をどう並べるかを組み立てられる。IFRの旅客機でも、間隔は管制官とのやりとりの中で一緒につくっていく感覚です。
管制官が間隔を取ってくれているときでも、その間隔が本当に取れているかは、操縦席の側でも確かめ続けます。VFRなら、管制の指示を受けない空も飛ぶので、ほかの機体との間隔は自分の目で取っていきます。運航と飛行安全の最終的な責任は機長(PIC)にあり、ConOps第2版も、空飛ぶクルマの機長をそう位置づけています。


まとめ
この章の要点
- 航空交通管制(ATC・指示を出す)と航空交通管理(ATM・調整の全体)は、別の言葉。UTMは“管制”ではなく、情報を共有して譲り合う仕組み。
- UTM=無人機のためのデジタルな交通整理。日本でも2026年9月に初の認定事業者が登場したが、まだ初期段階。
- U-Space=UTMを制度にした欧州の枠組み(2023年1月適用開始・4つのサービス)。
- 有人の空飛ぶクルマは航空法上の航空機で、当面は既存の航空交通管理の枠内。常に管制官が捌くわけではなく、最後の責任は機長。
- 有人eVTOLとUTMをどうつなぐかは、まだ“検討中”。「もう全部自動で管制されている」わけではない。
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eVTOL時代ではどう変わるか
ここまでは「いまはどうか」の話でした。では、これからは?
国のConOps第2版は、空飛ぶクルマが本格的に増える将来に向けて、AATMという新しい交通管理の姿を描いています。専用の通り道(AAMルート/AAMコリドー)を設け、情報共有や飛行計画の確認を通じて多数の機体を支える——という構想です。日本ではこのAATMサービスを、航空交通を担う機関(ANSP)が提供する予定とされています。
さらに、有人機のATM・無人機のUTM・空飛ぶクルマのAATMの間で情報を共有していく必要性も示されています。ただし、これは“方向性”であって、全国共通の管制手順やUTMとの接続が「もう施行された」わけではありません。
新しい交通管理が要る理由について、ConOps第2版は、都市での運航が大きく広がることや、遠隔操縦・自動運航が入ってくることを考えると、「現在のVFRによる安全確保だけではいずれ限界が来る」と書いています。そこで示されたのが、運航を計画の段階から調整する交通管理です。
管制官の人手については、既存の航空機の分でも心配の声があります。国会では、航空管制官の欠員が2019年度の初めの38人から、2024年度の初めには91人に増えたと答弁されました(2024年5月・参議院決算委員会。国は、安全に必要な人員は確保しているとも説明しています)。
一方で、負担を減らす動きもあります。国内の航空路では、決まった形のやりとりを、音声の無線から文字のデータ通信(CPDLC)へ置き換え始めました。
それでも、管制官とパイロットのやりとりは、いまも音声が中心です。管制官の負担を下げるには、管制システムそのものの見直しも必要になる——私はそう考えています。なかでも気になっているのは、音声中心のやりとりのままで、eVTOLが増えた分まで支えられるのか、という点です。
30秒クイズ・考える問い
30秒クイズ
次のうち、2026年10月の時点で正しいのはどれでしょう。
- A:空飛ぶクルマは、ドローン向けのUTM事業者がまとめて管制している。
- B:有人の空飛ぶクルマは航空法上の航空機で、当面は既存の航空交通管理の枠内で飛ぶ。
- C:日本では、空飛ぶクルマ専用の全国管制システムが、すでに施行されている。
答え:B。UTMは主に無人機向けの仕組みで、有人eVTOLを一律に管制するものではありません。空飛ぶクルマ向けの将来像(AATM)は、“検討・設計の段階”です。
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