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この記事で分かること
| 対象 | パイロットを目指す人・eVTOLに興味がある人(自動化で仕事がどう変わるのか気になる) |
| 難易度 | ★☆☆ |
| 所要時間 | 約7分 |
| 読むと分かること | ①自動操縦があるのに人が乗っている理由 ②自動化が得意なこと・苦手なこと ③eVTOLの“操縦が簡単”=無人ではない ④自律化は段階的で、判断は人に残る |
はじめに
「自動化が進んだら、パイロットっていらなくなるんじゃないか」——進路を考えるとき、ふとそんな不安がよぎったことはありませんか。
現役のパイロットのブログにも、将来を気にかける一文がありました。「明日いきなり“パイロットのいらない飛行機ができました”と発表されたら、あっという間に無職になっちゃう」(あらいぐま機長「パイロットの抱える将来への不安」)。自動運転もAIも、ものすごい速さで進んでいます。
ただ、「操作を機械に任せる」ことと「人を乗せずに飛ばす」ことは、別々の話です。このあと、FAAやNASAの資料をもとに、その2つを分けていきます。「操縦が簡単になる」というニュースを読むときの、ひとつの手がかりになります。
私が日々の運航で感じるのは、自動化が進んでも人の出番がそのまま消えるわけではない、ということです。自動化された機体を毎日“監視する側”にいる実感も、ところどころで話します。
結論(先に一言)
自動化が引き受けるのは、操縦という“タスク”です。一方で、「いま機体が何をしているかを理解し、前提が崩れたときに何を選ぶか」という判断と責任は、人が担い続けます。だからeVTOLの時代でも、パイロットの仕事は無くなるというより、「操縦」から「監視と判断」へ重心が移っていく——というのが、いまの一次資料から読み取れる姿です。
「自動操縦があるのに、なぜ2人も乗っているの?」
旅客機には自動操縦もオートスロットルもFMS(飛行管理システム)もあります。それでも2人のパイロットが乗っているのは、なぜでしょう。
FAAが2025年9月に出した「航空機の自動化に関する安全の枠組み」は、こう整理しています——自動化されるのは“航空機そのもの”ではなく、“個々のタスク”だと。つまり、操縦という作業を機械が肩代わりできても、運航の全体を人なしで成立させられる、という話とは別なのです。

▲ 自動化されるのは“タスク”。監視・状況認識・異常時の判断は人に残る。
自動操縦を使っている間、人が受け持つのはこんなことです。
- 監視(モニタリング):スイッチが入っているかではなく、“実際の飛行が意図どおりか”を確かめる。
- 状況認識:いま何が起きていて、次に何が起こりそうかを読む。
- 異常・計画外への判断:想定していなかった故障や天候に、使える手段で対応する。


機長席と副操縦士席の前には、それぞれPFD(姿勢や速度、自動操縦のモードを映す主計器の画面)があります。あるとき、そのPFDが左右で違う表示をしていました。自動操縦は意図どおりに動いていなかったのに、片方の画面だけを見れば「うまくいっている」と思えてしまう状態でした。2人で見比べていたから、ずれに気づけたんです。
ほかにも、「この地点(ウェイポイント)へ直行して」という指示を受けたあとのことです。機体はその地点へ向かっていたのに、自動操縦のモードは、決めた機首方位を保つだけの「ヘディングモード」のままでした。本来は、FMSに入っている経路に沿って飛ぶモードに切り替える場面です。このままだと、風で流されても経路には戻らず、地点を過ぎても次の経路へは曲がってくれません(直行の指示でモードが自動で切り替わるかどうかは、機種によって違います)。「向かっているから大丈夫」と思えても、どのモードで向かっているかまで見ると、違っていることがあります。私にとっての監視は、そういう作業です。
自動操縦を外して、手で飛ぶ場面もあります。基本は自動操縦を使って飛びますが、異常の種類によっては(失速からの回復など)、手順として自動操縦を切り離して手で飛び、落ち着いてから自動操縦に戻すものもあります。機体の動きと一緒に、いまは自動操縦に任せておける場面なのかも見ています。
2人のうち操縦していない側は、いまは「PM(パイロット・モニタリング)=監視するパイロット」と呼ばれています。操縦桿を握っていない時間にも、さきほどのような表示やモードのずれを見つける仕事があります。「監視も業務のうち」という考え方は、AIが身近になっていくこれからの時代、みなさんにも案外なじみやすいものだと思っています。
自動化が得意なこと、苦手なこと
自動化は、決まった作業を正確に、長時間こなすのが得意です。でも、“人が受け身になりやすい”という副作用もあります。FAAの安全資料は、2つの言葉で注意を促しています。

▲ 「設定したつもり」のずれと、手動復帰のしづらさ。だから監視と訓練がいる。
- モード混乱(mode confusion):自分が思っている作動状態と、機械の実際の状態がずれること。「設定したつもり」でも、機体がそのとおり動いているとは限りません。
- 自動化依存(automation dependency):ふだん機械任せにしていると、いざ手動に戻すときや、慣れない表示に切り替わったときに、対応しづらくなること。
だからFAAは、問題を「操縦者の不注意」だけのせいにしていません。分かりやすい表示、予測しやすいシステム、適切な手順、異常時まで含めた訓練——人と機械の“チーム”で安全をつくる、という考え方です。


eVTOLは操縦が簡単になる——でも「無人」とは別の話
空飛ぶクルマ(eVTOL)は、「操縦が簡単になる」とよく言われます。これは本当です。でも、“簡単になる”と“無人になる”は、まったく別の話です。
NASAの2024年の論文は、SVO(Simplified Vehicle Operations/操縦の簡素化)を、「安全に飛ぶために操縦者が覚えなければならない“技能の数”を、自動化で減らす」考え方だと説明しています。たとえば、細かく姿勢や出力を操作する代わりに、「この速度で」「上昇して」と“望む動き”を指示すれば、制御システムがローターや舵の配分を調整してくれる——Jobyも公式に「フライ・バイ・ワイヤの統合制御」を掲げています。

▲ 操作のハードルは下がる。でも“何を判断するか”は残る——そこが仕事の中心に。
NASAの研究も、いまのところは“概念機のシミュレーションでの予備評価”で、「すべてのeVTOLで実証済み」でも「訓練が何割減る」でもありません。SVOが減らそうとしているのは操縦者が覚える技能の数で、操縦者そのものではありません。


自動化が進んでも、人が引き受けること
旅客機を2人で飛ばしていると、悪天のときに「行ける」「いや、やめておこう」と判断が割れることがあります。15年ほど前、先輩にこう言われました。「“行ける”と言うもう1人が途中で操縦できなくなって、自分1人で安全に降ろすことになっても——それでも行けるか。そこまで考えて『やめる』なら、それがベストな判断だ」と。
自動操縦を使っているときも、私はこの言葉に立ち返ります。自動化は、たくさんのことをこなしてくれる——その意味で、「行ける」と言う声の一つに近いのかもしれません。でも、最悪を想定して“最後に引き受ける”のは人です。
この先、操縦室に何人のパイロットが必要になるのか——正直なところ、私にも分かりません。地上から遠隔で見守る人が加われば、いまの2人体制を1人にできる可能性もあると、個人的には思っています。一方で、欧州航空安全機関(EASA)が巡航中だけ操縦室を1人にする案を研究し、2025年にまとめた結論は、いまの操縦室の設計のままでは2人で飛ぶのと同じ安全性を十分には示せない、というものでした。EASAは、まずは2人のまま新しい技術を育てていく方針です。
大事にしたいのは、機械を過信しすぎず、人間も過信しすぎないという感覚です。機械は意図どおりに動いているか。それを見ている人は、表示を見落としていないか。そして、見ている人のことも、もう1人が見ているか。
自動化が進むほど、機械と人、そして人と人との意思疎通が大事になっていく——私はそう考えています。いまの旅客機でも、人のエラーがきっかけになった事故は少なくありません。FAAの指針も、乗員どうしの「監視とクロスチェック」を、事故を防ぐ“最後の防御線”になりうるものと位置づけています。
別のブログには、こんな言葉もありました。「パイロットの本質は技術力だけではない。チームワーク、冷静な判断力、コミュニケーション、そして責任感だ」(サラリーマンからパイロット目指して)。


まとめ
- 自動化されるのは“航空機そのもの”ではなく“個々のタスク”。操縦を機械が肩代わりしても、運航全体を人なしで成立させる話とは別。
- 人が担うのは監視・状況認識・異常時の判断。ただ眺めるだけの監視では異変に気づくのが遅れるので、集中力がいる。
- eVTOLのSVOは「操縦の負担を下げる」もので、「操縦者を不要にする」ではない。
- 自律化は会社ごとに方向が違い、一本道ではない。判断と責任は人に残る。
- これから比重が増していくのは、操縦桿の技量に加えて、「機体がいま何をしているか・前提が崩れたら何を選ぶか」を理解する力。
Twitter(@ASK_PILOT_ASAP)、TikTok(@tobuzo30000ft)、BLOG(コックピットの記憶)
eVTOL時代ではどう変わるか
「いつか完全に無人になるのでは?」という疑問にも触れておきます。
自律化は、「有人→一人操縦→遠隔操縦→完全自律」と一直線に進むと決まっているわけではありません。会社ごとに、方向が違います。

▲ 会社ごとに進む方向が違い、共通の順番や時期はまだ示されていない。
- Jobyは、認証を進めている機体に“有資格のパイロットが搭乗する”前提です(自律飛行の技術開発も並行し、2026年9月には別の機体で自律飛行を実証しましたが、安全操縦者が乗る実証で、無人の旅客運航が認められたわけではありません)。認証がいまどの段階にあり、パイロットの訓練がどう組まれているかは、「Jobyの認証は今どこ?」(#207)で追っています。
- Wiskは、機内に操縦者を置かず“地上の人が監督する”自律型を目指しています。
また、こうした自動化を前提にした新しい飛行ルール「AFR(Automated Flight Rules)」も提案されていますが、これはVFR・IFRを“置き換える”のではなく“補う”提案で、まだ施行された規則ではありません。VFRとIFRの違いや、AFRの構想がいまどこまで来ているかは、「VFRとIFRの違いとは?」(#5)でも触れています。
「有人→遠隔→自律へ、みんな同じ順番で進む」という公式の決まった道筋や、その時期は、いまのところ示されていません。
30秒クイズ・考える問い
30秒クイズ
「自動化が進んでもパイロットが必要」を、いちばんよく表しているのはどれでしょう。
- A:機械は完璧ではないから、念のため人を乗せている。
- B:自動化されるのは“操縦というタスク”で、監視・異常時の判断・最後の責任は人が担うから。
- C:法律で2人乗せると決まっているから。
答え:B。自動化は仕事を“操縦”から“監視と判断”へ移すもので、判断と責任は人に残ります。
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