
Contents
大阪万博の空飛ぶクルマ|何が実証され、何が残ったのか
この記事で分かること
| 対象 | 万博で「空飛ぶクルマ」を見聞きし、実際どこまで進んだのか知りたい方 |
| 難易度 | ★★☆(業界動向・やさしめ) |
| 所要時間 | 約7分 |
| 読むと分かること | 3機種・計81回の飛行で何が実証されたか/「飛んだ」と「実用化」の違い/残った宿題と2028年の目標 |
はじめに
2025年の大阪・関西万博で、「空飛ぶクルマが飛んだ」というニュースを見聞きした方は多いと思います。でも、人は乗っていたのか、もう交通として使える段階なのか——見出しだけだと、そこはつかみにくいところです。
「飛んだ」と聞くと、もう乗れるのかなと期待したくなります。一方で「デモ」と聞くと、まだ遠い話なのかなとも感じる。実際の進み具合は、その間のどこかにあります。
このあと、3機種・計81回の飛行で何ができて、商用運航までに何が残っているのかを、運航の現場で天候と向き合ってきた目線も交えて確かめていきます。
結論(先に一言)
万博では3機種のeVTOLが計81回飛びましたが、一般のお客さんを乗せて運ぶ商用運航は実現していません。到達点は「商用運航に向けたデモ」です。
実証できたのは「実機を、来場者の前で、繰り返し安全に飛ばせること」。残った宿題は、天候に応じて飛ぶ・飛ばないを判断しながら定時性を高めることと、型式証明・商用運航の制度です。
万博で実際に何が飛んだのか
大阪府がまとめた成果資料では、万博会場(EXPO Vertiport)を拠点にしたデモフライトは3機種・計81回でした。国土交通省の集計では、この回数に慣熟飛行(操縦者が機体や経路に慣れるための飛行)なども含まれています。

▲ 3機種のデモが発着したEXPO Vertiport(運営者撮影)
- HEXA(米LIFT Aircraft/丸紅が実施):2025年4月・7月に29回。1人乗りの機体を、LIFT社のテストパイロットが操縦する有人デモです。
- SkyDrive式SD-05型(SkyDrive):7〜8月に17回。こちらは無人で、公式発表の表現では「パイロットは搭乗せず、自動制御とリモート操縦」。初日は高度約4m・約3分の周回でした。8月16日の海上の飛行では、距離720m・最高27mまで広げています。
- Joby S4(ANAホールディングス・Jobyの共同事業):9〜10月に35回。ANA塗装の機体を、Jobyが許可を得て運航した有人デモで、垂直に上がって翼で揚力を得る飛行への移行まで見せました。

▲ EXPO Vertiportで見たHEXAの実機(運営者撮影)
飛んだ範囲も、機種ごとに違います。国交省の振り返り資料では、HEXAはEXPO Vertiportの中、SD-05はその周辺、Joby S4はEXPO Vertiportから会場西側の海上を飛んだと整理されています。Jobyについては、万博協会が飛行経路を図で示し、高度はおよそ900ftまで、時間は10分程度と案内していました。同じ振り返り資料にある事業者の回答では、運航する空域や経路は、航空路誌の補足版(AIP SUP)で周辺の運航者にも知らされていました。

▲ 同じ「飛んだ」でも、人が乗っていたかどうかと、見せた飛び方は機種ごとに違う


補足:飛ばずに展示だけだった機体
会場には、飛ばずに展示だけだった機体もあります。Soracle(JAL・住友商事)のArcher Midnightは実物大モデルの「展示」で、丸紅が当初予定していた英国のVX4も、試験の進捗を理由にデモを見送りました。「万博で飛んだ機体」と「展示された機体」は、別に数えられています。
万博とは別に、大阪港バーティポートでも飛んでいた
万博のデモとは別に、SkyDriveは2025年9月、大阪港の中央突堤にある大阪港バーティポート(Osaka Metroが整備)でもSD-05を飛ばしています。慣熟飛行のあと、9月13日から23日にかけて、報道向け、地元の港区民向け、一般向けの見学会を順に開いています。ここでも操縦士は乗らず、自動制御と遠隔操縦で、ポートの敷地内、または離着陸場から海上までを周回するルートを計画していました。Osaka Metroの資料によると、見学会は全17回のうち12回で飛行し、来場者は2,000人を超えました。
SkyDriveは当初、万博会場のEXPO Vertiportと大阪港バーティポートを結ぶ二地点間の運航も予定していましたが、最終的には見送られました。
大阪港バーティポートは夕陽のテラスの横にあり、いまも外から様子を見に行けます。格納庫で開かれている予約制の「空クルラボ」は、飛行を見る催しではなく、SD-05の実寸模型に座る搭乗体験などができる場です。Osaka Metroは、ここを拠点に2028年度以降の商用運航開始を目指しています。

▲ 大阪港バーティポートの入口の看板。Osaka Metro中央線の大阪港駅から歩いて12分ほど(運営者撮影)
「飛んだ」と「実用化した」はどう違うのか
「飛んだ」と「実用化した」は、近く見えて段階が違います。ニュースでは、次のような違いが一緒くたになりがちです。

▲「飛んだ」「人が乗っていた」「認証が進んだ」「時期が示された」は、それぞれ別の段階
デモと商用の違い。万博の飛行は、限られた条件で実機を飛ばす実証です。一般のお客さんを乗せて運ぶには、航空運送事業などの許可が別に必要です。
無人と有人の違い。万博でSkyDriveは無人(自動制御+遠隔操縦)、HEXAとJobyは操縦者が乗る有人デモでした。「無人で飛んだ」を全部の機体に広げると、事実とずれます。

▲ 万博のパビリオンで展示されていたSkyDriveの機体のモックアップ。飛んだ機体ではなく展示用の模型(運営者撮影)
⚠ 注意:審査が進んでいることと「取得」は別
申請と取得の違い。機体が飛べる「型式証明」は、申請して審査に入った段階と、審査を通って取得した段階がまったく別です。SkyDriveでいえば、適用基準の発行(2025年2月)、審査の全般計画書の合意(2026年3月)、設計を担う組織の認定(2026年4月)と段階が進んでいますが、これは「取得」ではありません。
目標と確定の違い。「2028年の商用化」は企業や国が掲げる目標で、確定した就航日ではありません。国のロードマップ(2026年3月改訂)でも、初期の商用運航は2027〜2028年を目標として示されています。


何が残ったのか——気象・定時性・制度
では、万博は何を宿題として残したのでしょうか。公開された記録だけでも、いくつか見えてきます。

▲ 飛べたあとも、毎日運ぶには天候の判断・制度・人と機械・空の交通管理の準備が残る
ひとつは天候と定時性です。SkyDriveのデモは、8月7日が悪天候、11日は停滞前線と台風11号の影響で中止になりました。HEXAも、開幕日の4月13日は天候で飛行を見送っています。SkyDriveでは8月17日に、安全性の総合的な判断で、飛行を機体展示に切り替えた便もありました。国がまとめた振り返りアンケートには、2週間ほど連続して定時的に運用できたという事業者の声がある一方で、飛行実証でも遅延への一般の方の反応は厳しかった、という声も載っています。天候に応じて飛ぶ・飛ばないを判断しながら、毎日決まった時刻に運ぶ。日々の交通に求められるこの水準は、デモの飛行回数だけでは確かめきれません。
既存の飛行機でも、天候を前にGo/No-goの判断がすぐには決まらない朝があります。風、雲、視程。飛べるかどうかは、機体の性能だけでなく、その日の空と地上の条件で決まる。私は、飛べた回数と同じくらい、飛べなかった日にどう判断したかを見ています。交通としての成熟度は、そこに表れやすいと感じるからです。
その目で見ると、SkyDriveが中止や機体展示への切り替えを選んだことを、私は高く評価しています。中止を知らせる投稿には「楽しみにされていた皆様には大変申し訳ございません」とあり、来場者の期待に応えられないと分かったうえで、飛ばないほうを選んでいます。パイロットにとって、誰に何と言われても最後は自分で飛ぶ・飛ばないを決めるのは、日常のことです。操縦士が乗らない無人のデモでも、運航する側に同じ判断があったことは、日本の航空産業全体で見て大きな前進だと思います。
一方で、飛べた日に手にしたものもあります。商用運航には届かなかったものの、来場者の前で実機を繰り返し飛ばせたことです。100年以上前、ライト兄弟の最初の動力飛行も、1回目は12秒、約37メートルでした。時代も条件も違いますが、新しい航空機は短い飛行の積み重ねから進んできました。資金の面でも、SkyDriveの累計調達額430億円超(2025年7月公表)に対し、JobyやArcherは2024年の時点で20億ドル前後(1ドル150円換算で約3,000億円)でした。その差の中で日本勢が実機を飛ばした経験は、10年後、20年後の日本の航空機産業に生きてくる——私はそう期待しています。
もうひとつは制度です。機体の型式証明、運航会社の許可、離着陸場(バーティポート)、操縦士の資格。これらがそろって、はじめて日常の運航になります。
運航を広げていく段階に向けては、ほかにも課題があります。ひとつは、人と自動化された機体の役割分担です。今の飛行機はすでに多くが自動化されていて、事故の話をたどると、機械とのやりとりや人同士の連携の行き違いに行き着くことがよくあります。私が気になるのは、eVTOLが毎日の交通になるとき、その行き違いを機体と自動化の作りでどこまで起きにくくできるか、です。


もうひとつは、空の側の仕組みです。大量に運ぶには既存の飛行機がこれからも必要で、eVTOLはその空と共存していくことになります。国のロードマップでも、新しい交通管理の導入は2030年代前半が目標です。振り返りアンケートでも、就航率や便数を高められる交通管理の制度づくりを求める声が事業者から出ていました。便が増えたあと、その空をどう分け合うか。機体とは別に、空の側にも準備が残っています。
まとめ
この記事の要点
- 万博では3機種・計81回の飛行(HEXA有人29/SkyDrive無人17/Joby有人35。国交省の集計では慣熟飛行なども含む)。一般客を運ぶ商用運航や2地点間の移動は実現していない。
- 「飛んだ」と「実用化」は別。デモ/商用・無人/有人・申請/取得・目標/確定は、それぞれ別の話。
- 実証できたのは「実機を繰り返し安全に飛ばせたこと」。残った宿題は、天候に応じた判断と定時性、型式証明・商用運航の制度。運航を広げていく段階に向けては、人と機械の役割分担や空の交通管理も残る。
- 「2028年商用化」は目標で、確定した就航日ではない。型式証明も取得はこれから。
Twitter(@ASK_PILOT_ASAP)、TikTok(@tobuzo30000ft)、BLOG(コックピットの記憶)
eVTOL時代ではどう変わるか
最後に、操縦する側から見た話を少し。万博では無人のデモもありましたが、操縦士がいらなくなる、という話ではありません。国は当面、専用の新しい資格はつくらず、今の操縦士の資格にeVTOLの型式ごとの限定を付ける方針です。型式ごとに必要な経歴や試験は、これから決まっていく段階です。
私の実感では、目で見て飛ぶ運航や、離着陸する場所の見極めは、ヘリコプターのパイロットが日ごろ使っている技能とかなり重なります。パイロットの仕事には、エアラインのほかに、空撮や人命救助、輸送などの一般航空もあります。そこで働くパイロットがもっと増えるといいな、とも考えています。
気象の読み、離着陸場の見極め、安全の優先順位。新しい機体で何が変わり、これまでの運航判断のどこが共通するのか。万博のデモは、それを考える材料にもなりました。
30秒クイズ・考える問い
30秒クイズ(タップで答えを見る)
**問1** 万博で無人(自動制御+遠隔操縦)のデモを行ったのは、次のどれ? A. HEXA B. SkyDrive SD-05 C. Joby S4 **答え** B。HEXAとJobyは操縦者が乗る有人デモでした。 **問2** 「型式証明の申請が受理された」は、「型式証明を取得した」と同じ意味? **答え** いいえ。申請・審査の入口と、審査を通った取得はまったく別の段階です。次に読む・関連記事
- 次に読む:「日本の空飛ぶクルマ制度ロードマップ」(#202)。万博という出来事を、制度の全体像の中に置いて見られます。
- 関連:「SkyDriveは日本の制度でどこまで進んでいるか」(#209)/「空飛ぶクルマの仕組みを図解」(#201)

本ブログは、10年間のパイロット経験を積み重ねてきた筆者が、「誰でも飛べる」をモットーに将来パイロットになりたい学生に向けて発信しています。
今後も、パイロットのことに関して定期的にブログで発信していきますので、更新通知を受け取ってくださる方は、ぜひメールアドレスを登録してください。
また、何かご質問がございましたら、TwitterやインスタのDM、お問い合わせ欄からのご連絡もお待ちしております。

【ご注意】 本記事は学習目的の解説です。実運航・制度・各社の動向は、国土交通省・大阪府・各社の最新の公式発表を必ずご確認ください。本記事の内容は2026年10月時点のものです。
