高城剛の未来予測は今どうなった?2011年の本を現在の資料で検証

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今回のポイント:高城剛さんの『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(2011年)の未来予想を、今の資料で確かめました。作る道具は広がり、人を推し量る技術も進む一方で、個人情報を守る仕組みも増えています。

皆さん、こんにちは。2011年に「誰もが映画を作る」と書かれていたら、生成AIのある今を思い浮かべるかもしれません。では、同じ本にある、個人情報の保護は意味を失う、という予想はどうでしょうか。

まずは、この本をどんな目で読んだのか、そこから見ていきましょう。

この本をどう読むか

私がこの本を手に取ったのは、タイトルの「不定」「不明」にひかれたからでした。「不安定」な時代に、あえて選ぶ新しい生き方の模索こそが、「不定」「不明」なのかなと感じたんです。

この本の未来の予想には、機械と人の関係に触れるものがいくつもあります。私はふだん、旅客機のパイロットとして働いていて、操縦室では自動操縦と自分の手での操縦を使い分けています。機械と人の役割分担は、毎日の仕事の一部なんです。

今回のブログでは、高城さんの予想を1つずつ、今の統計や制度、研究と並べて、どこまで来ているのかを見ていきます。

本が描いた5つの未来

この本は、高城さんが自分に144の問いを出し、1つずつ答えていく形の本です。22歳から44歳までに手がけた仕事の歩みや、住む場所を決めずに暮らす理由も書かれていて、その合間に、未来の予想がまとまって出てきます。

今回のブログで確かめる予想は、次の5つです。

  • 誰もが作り手になる(Q69)
  • 個人情報の保護と著作物の行方(Q17)
  • 個人情報の保護が意味を失うきっかけとしての、脳や量子コンピュータ(Q17・Q66)
  • 「機械が機械を作る」AIの進化(Q64)
  • 日本の姿(Q123)

1つ目の作り手について、高城さんはこう書いています。

「これからは、誰もが写真を撮って、誰もが小説を書いて、誰もが映画を作る時代になると思います。」

(高城剛『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』Q69「何年先のことまで考えていますか?」)

生成AIで画像や動画を作れる今の話のように聞こえますが、書かれたのは2011年です。

ただ、読むときに1つ、そろえておきたいことがあるんです。本の「100年」は、21世紀の残り、今世紀の終わりまでを指しています(Q17)。刊行から15年の今は、答え合わせの日ではなく、途中経過を見る日なんです。

本の基本情報
書名:『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』
著者:高城剛
出版社・発行:マガジンハウス・2011年2月(紙版)

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作る道具はもう届いた

AIで誰でも絵や文章を作れるなら、もう全員が作り手なのでは?と思いますよね。

数字で見ると、道具はかなり届いています。総務省の調査では、生成AIを使ったことがある人は、15〜69歳の58.8%でした。ほぼ6割です。

内訳は次のとおりです(総務省「令和8年版 情報通信白書」・2026年1〜2月の調査)。

  • 文章を作るAI:55.0%
  • 画像や動画を作るAI:16.3%(6人に1人ほど)
  • 音楽を作るAI:5.8%(100人に6人ほど)

ただ、これは「使ったことがある」人の割合です。前の年の調査とは対象の年齢が違うので、増え方もそのままは比べられません。作品を作って人に見せた人がどれくらいいるかを示す公的な全国調査は、見つかりませんでした。

道具が広がっても、人が補う部分は残っています。たとえば私の勤め先では、引き継ぎ書をAIに作らせています。これまでのメールやチャット、作ったファイル、会議を読み込ませて、それをもとに書かせるんです。

でも、実際の引き継ぎは人がしています。メールに書けなかったことや、会議では言わなかったことなど、あえて記録していないことも含めて引き継ぐからです。

AIが作った引き継ぎ書をただ渡すだけでなく、人が細かいところを補う。そうすることで、受け取る人にとって無機質にならず、引き継ぎのストーリーとして伝わるんですよね。

社内教育用の動画も、素材だけ集めれば、あとの編集はAIがするようになりました。

とはいえ、誰に見せる動画なのかによって、好まれる内容や雰囲気は変わります。その細かいニュアンスは、同じ空間にいたり、ふだんの会話を重ねたりしないと分かりません。人間にしか分からない部分です。それをAIにうまく指示しないといけないので、完全に任せきれているわけではないんです。

もう1つ、別の物差しもあります。作れるようになることと、作って食べていけることは、同じではありません。2019年に出た橘玲さんの本は、そちらの物差しでこう書いています。

「このようにいうと誰もがクリエイターに憧れるだろうけど、成功するのはごく一部というきびしい世界で、タダ働き(ときには持ち出し)になることもある。」

(橘玲『人生は攻略できる』攻略編2「拡張可能な仕事と拡張できない仕事」)

高城さんが書いたのは「作る」ほうの話で、作って食べていけるかまでは書いていません。

作り手の予想は、道具の広がりとしては当たっている方向だと思います。ただ、「誰もが作り手になった」とまでは、まだ言えません。職場の例でも、何を作るか、どこを補うかを決めているのは、今のところ人のほうです。

手順の多い仕事で、どこに人の判断が残るのかは、『人生は攻略できる』を読んで書いた記事でも考えました。

技術は近づき、制度は逆へ

個人情報と著作物についての予想で見落とせないのは、高城さんが、個人情報の保護が意味を失う未来を、前向きに書いている点です。本には、こう書かれています。

「それでも、自分から吐露していてパブリック・フォルダに入れてオープンにしているわけですから、大きな変化ではありません。」「100年たつと個人情報保護は、まったく無意味になり、著作物も、すべて共有、になるでしょう。」

(高城剛『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』Q17「これからの社会は、どうなると思いますか?」)

引用の1文目は、SNSのように自分から出す情報の話です。高城さんは、それはまだ大きな変化ではないと見ていました。その先で「相手のことがわかるような技術」が出てくると、本人が出していないことまで分かるようになる。だから保護は意味を失う、という順番なんです。

読むときの注意

前向きというのは、「悪いこと」や「隠しごと」は、ドンドンできなくなる、という書き方のことです(Q17)。流出して守れなくなる、という意味の「無意味」ではありません。

「著作物も、すべて共有」という一文を読んで、私が最初に思ったのは、今の著作物のことでした。著作物はAIの学習に使われ、表に出た情報は言語の壁を越えて、あっという間に共有される時代になっています。ただ、情報が広く共有されることと、本人が明かしていないことまで分かることは、別の話です。

みお

みお
でも、言ってもいないことまでAIに当てられてしまうなんて、本当にあるんでしょうか?

実際、技術のほうは、たしかに近づいてきました。高城さんがきっかけに挙げた脳や量子ではなく、入口に立ったのはAIでした。

本人が出していないことまで分かるなら、個人情報はどう守るのか。ところが、意外にも、社会と制度は技術とは逆の向きに動いています。強める材料と逆の材料を、短く並べてみます。左右は、1対1で打ち消し合う組ではありません。

予想を強める材料 逆の材料
言っていないことが分かるか AIが、公開された文章から住む地域や年齢を推し量れる(2023年の研究) EUは、体の特徴から人種などを推し量るAIを禁止(2025年2月から)
情報はどこに残るか 学習に使った文章を、AIからそのまま引き出せた(2021年の研究) 日本は、顔などの情報の利用停止を求めやすく(2026年7月公布)
人の受け止め方 データを渡していると認識している人は約4割(総務省) ネットを使う人の4人に3人が不安(総務省)
著作物 AIの学習なら、原則として許可なく使える(文化庁) 学習データの開示などを求めるコード(内閣府・2026年8月)

表の研究は、どれも条件をそろえたうえでの結果です。2023年の研究で、文章から推し量れたのは最大85%で、分かるのも地域や区分までです。誰のことでも何でも分かる、という話ではありません。

これとは別に、名前を消した名簿でも15の項目がそろえば、ほぼ全員(99.98%)を特定し直せるという推計もあります(2019年の研究)。

技術は、高城さんの予想にかなり近づきました。けれど、隠しごとができなくなる未来を前向きに描いた本に対して、今の日本では、ネットを使う人の4人に3人が不安を感じています。

少なくとも今は、個人情報の保護が「無意味」になるより、守る理由が増える方向に見えます。今世紀の終わりの答えは、まだ分かりません。

脳・量子・AIと日本の今

高城さんが、相手のことが分かる技術のきっかけに挙げたのは、脳や量子コンピュータでした。

脳を読む機械は、もうできているのでは?と思った方もいるかもしれません。

たとえば2026年9月には、麻痺のある3人の脳の信号から、話そうとした言葉と身ぶりを同時に読み取る研究が発表されました(Nature Neuroscience)。ただ、これは本人が伝えようとしたことを読み取る研究です。隠している考えをのぞく技術とは、まったく別ものなんです。

同じように、量子コンピュータも進んでいます。理化学研究所と大阪大学は、2026年3月に144量子ビットの「叡-Ⅱ」をクラウドで使えるようにしました(理化学研究所)。

10月には、理研などが5つの量子ビットを同時に動かして、約99.9%の精度を保てたと発表しています(理化学研究所)。それでも、誤りを直しながら大きな計算をこなす段階の手前です。

AIは自分を改良できるか

「機械が機械を作る」に近い動きもあります。2026年9月には、研究用のAIが自分のプログラムを書き換えて、成績を上げたという報告が出ました(査読前の論文)。

けれど、改良されたAIがさらに上手に自分を改良できるかは、著者ら自身が「決定的でない」としています。高城さんの言う「急速な進化」が始まったとまでは、まだ言えなさそうですね。

今は判定できない予想

高城さんは、これから100年でコンピュータ、エネルギー、宇宙の探査の3つの革命が起きる、とも書いていました(Q66)。ただ、何がそろえば革命と呼べるのか、本には基準がありません。「ネットでつながっているのは5%、映像になると20%近く」という数字も、何を100とした割合なのか、はっきりしないんです。

3つの革命の予想と、ネットや映像の割合の数字は、どちらも今は判定できません。

日本の姿を数字で見る

技術の進み方とは別に、日本の高齢化や資産については、今の数字と並べられます。高城さんは、日本は世界から「弱腰な金持ち老人の国」と見られている、と書いていました(Q123)。

65歳以上の人の割合は、2010年の23.0%から29.6%になりました(総務省統計局・2026年9月の推計)。ほぼ10人に3人です。外国に持つ財産から借りを引いた額(対外純資産)も、561兆円余りあります(財務省・2025年末)。

とはいえ、「弱腰」かどうかや、世界からそう見られているかは、統計では確かめられません。高城さん自身も「世界的に共通な見方のような気がします」と書いていて、ここは高城さんの受け止めとして読むのがよさそうです。

人と機械の境界はどこ?

この記事の結論

ここまでを並べると、作る道具は届き、相手のことが分かる技術も近づきました。その一方で、個人情報は守る方へ動き、脳や量子、AIの自己改良はまだ途中です。日本の姿は、高齢化や資産の数字までは確かめられました。

この本には、未来学者ロベルト・ユンクの言葉として、こんな一文が紹介されています。

「21世紀に世界を支配するのは経済指標の最高位を示す国ではなく、機械と人間の共存を解決した国家である」

(高城剛『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』Q123「日本は世界からどう見られていますか?」で紹介されている言葉)

共存を「解決する」とは、どういうことなのか。私の仕事でいちばん身近なのは、自動操縦です。

オートパイロット(エアラインでは「オーパイ」と呼びます)の動き自体は、人間よりも遅いんです。乱流が激しいときには、高度や速度を保てなくなります。そういう場面は離着陸のときに多いので、1か月に1回くらいは、自分の技量を保つことも含めて、オーパイを切って手で操縦しています。

異常があったときも、オーパイを切る手順になっている場合が多いです。機体メーカーが作る操作の手順で、人と機械の境界がはっきり決められているんです。

みお

みお
飛行機の中だけでなく、AIの使い方にも、そういう線はもう引かれているんでしょうか?

航空の外にも、似た線の引き方があります。EUのAI法は、職場で人の感情を読み取るAIを禁止しながら、医療や安全のための使い方は除いています。その例に挙がっているのが、パイロットの疲れを見張ることでした(欧州委員会の解説)。境界を、使い道で決めているわけです。

操縦室で自動化と人の判断がどう分かれているかは、自動化が進んでもパイロットが必要な理由にまとめました。

機械と人の境界は、今のところ人が決めています。では、その線を、いつ、だれが動かすのでしょうか。

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