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この記事で分かること
| 対象 | 「空飛ぶクルマは静か」と聞いて、本当かどうか知りたい方 |
| 難易度 | ★★☆(業界動向・やさしめ) |
| 所要時間 | 約7分 |
| 読むと分かること | eVTOLがヘリより静かといえる条件/測り方の違い(dB・SEL・EPNdB)/静かさと住民受容は別という話 |
はじめに
「空飛ぶクルマ(eVTOL)は、ヘリコプターよりずっと静か」。そんな話を、一度は聞いたことがあるかもしれません。街なかを低く飛ぶなら、音は気になるところですよね。
メーカーの「会話ができる静かさ」という言葉を聞くと、住宅地の上でもほとんど気にならないのかな、と思えてきます。でも、その言葉からは、どれくらい離れて、どんな飛び方をしているときの音なのかまでは分かりません。同じ機体でも、測る距離や飛び方で数字は変わります。それに、音の小ささは、街で受け入れられるかどうかを決める材料のひとつです。
ニュースに出てくる「何dB」は、どこで、どんな飛び方をしているときの数字なのか。このあと、メーカーの公表値とNASAなどの研究から、その条件を確かめていきます。
結論(先に一言)
eVTOLは電動の推進とローターの工夫で、同じ距離で比べればヘリより地上に届く音を小さくできます。とはいえ、「無音」でも「どの機体も一律に何dB静か」でもありません。
さらに、NASAの新しい研究では、同じ騒音の量(曝露量)にそろえて比べると、eVTOLとヘリで感じる不快感の差は小さい、という結果も出ています。街で受け入れられるかどうかには、機体の音だけでなく、1日に何便飛ぶか、何時に飛ぶか、どこを通るかも関わってきます。

▲ 3つの問いは重なりながらも、確かめる材料がそれぞれ違います。
「ヘリより静か」はどこまで本当か
よく引き合いに出されるのが、Jobyの公表値です。巡航中が約45dBA、離着陸時が65dBA未満とされています。数字だけ見ると、確かにヘリよりずっと小さそうです。
ただ、この数字には条件がついています。45dBAは「高度500mを飛んでいるときに、地上でそのまま測った音」ではありません。背景の音に埋もれないよう低い位置で測り、500m相当の値に換算したものです。離着陸の65dBA未満も「飛行経路から100m」という距離が前提。巡航の500mと離着陸の100mでは、そもそも距離の前提が違います。

▲ メーカーの公表値は、当時の試作機を特定の条件で測った数字です。
⚠ 注意:「10〜15dB静か」は条件つきの数字
「eVTOLはヘリより10〜15dB静か」という具体的な差も、ときどき目にします。これは、ある都市ルートをモデル化した研究で報告された値で、比べたヘリの型式や高度など、条件つきの数字です。「どんな場合もヘリより10〜15dB静か」と一般化はできません。


「同じ距離で比べれば小さくできる」ところまでは、研究やメーカーの試験が示しています。一方で、「無音」や「ヘリの100分の1」といった言い方は、いまある数字の裏づけを超えています。
なぜ静かにできるのか
「電動だからモーターが静か」というのも、理由のひとつです。電動化は「無音になる」ことではありません。大きく変わるのは、音を抑える設計の選択肢が増えることのほうです。
たとえば、1つの大きなローターに頼らず、複数の小さなローターに推力を分ける(分散推進)。回転の勢い、つまり羽根の先端の速さ(翼端速度)を抑える。機体そのもので音をさえぎる。こういう工夫がしやすくなります。ただ、羽根が空気を押し下げるときの「空力音」は、電動でも残ります。

▲ どの工夫も、羽根の音をゼロにするのではなく、出方を抑えるための選択です。
羽根の先端の速さは、回転数だけでは決まりません。同じ回転数なら、ローターが大きいほど先端は速く動きます。だから「大きなローターなら静か」とも言い切れず、必要な推力やローターの枚数、配置との組み合わせで決まります。
音には「大きさ」のほかに、「気になりやすさ(アノイアンス)」という別の軸もあります。同じ音量でも、音の高さや揺れ方で、気になり方には差が出ます。

同じ距離で聞き比べるなら、その通りです。NASAが2025年に行った聴感実験では、40人がヘリ4機種と、eVTOLなどの機体6機種の音を聞き比べ、同じ距離ならeVTOLなどのほうが音は小さく、不快感も低めでした。ところが、1回分の音の量(A特性SEL)をそろえて聞くと、不快感の反応はヘリと似たものになりました。「静かにできる」と「不快に感じにくい」は、いつも一致するとは限りません。

▲ 比べ方Aは「距離」を、比べ方Bは「1回分の音の量」をそろえています。
「何dB」はどう測るのか
「何dB」という数字にはいくつか種類があって、それぞれ違う質問に答えています。同じ「dB」の表記でも、物差しが違えば、そのまま並べて比べることはできません。
- dBA(A特性):人の耳の感じ方に合わせて重みづけした音のレベル。ただし「最大値なのか平均値なのか」までは示しません。
- SEL(単発騒音暴露レベル):1回分の音を、続いた長さも含めてまとめた値。短く通り過ぎる音と、長くホバリングする音を、長さも含めて比べられます。
- EPNL(単位はEPNdB):航空機の騒音認証で使う指標で、音の成分や継続時間の補正が入っています。dBAとは作りが違うので、差し引いて「何dB静か」とは言えません。

▲ 同じ「dB」でも、何をまとめた数字かは物差しごとに違います。


国際的にはICAOのAnnex 16という航空機騒音の標準があり、欧州(EASA)はホバリングの評価も加えた技術仕様づくりを進めています。「国際基準がある」ことと、「ある機体がその基準で認証を取った」ことは、別々に確かめる話です。
では日本はどうかというと、型式証明の審査には、強度や性能の基準と並んで騒音の基準も含まれています。国土交通省は、空飛ぶクルマの騒音基準を機体の型式ごとに定める考え方で、それぞれの機体の騒音がどのくらいになるのかも、この審査の中で示されていくと思います。私も引き続き注目していきます。
もうひとつ私が気になっているのは、測り方です。従来の航空機は、離陸・上空通過・進入という「通り過ぎる音」で測るのが基本でした。でも空飛ぶクルマは、低い高度をゆっくり飛んだり、その場でホバリングしたりします。国土交通省の2024年の資料にも、従来の方法では運航の実態に合わせて測りにくい、という説明があります。その場にとどまる音を日本でどう測るのかは、公開資料だけではまだ見通せません。「空の移動革命に向けた官民協議会」などで、官民が協力しながら新しい航空機に合わせて整えていく段階なのだと思います。
静かでも、受け入れられるとは限らない
音が小さくなれば、それで街に受け入れられるのでしょうか。音に気づくこと、不快に感じること、運航そのものを受け入れることは、少しずつ違う話です。
- 聞こえるか(気づく・目立つか)
- 不快に感じるか(アノイアンス)
- 運航を受け入れるか(安全性や便益、説明への信頼まで含む社会受容)
「背景の音より小さい」という予測も、「誰にも聞こえない」「不快に感じない」と同じではありません。NASAも、音に気づくかどうかと、不快に感じるかどうかを分けて研究しています。そして街での受け入れは、機体の性能だけでなく、1日の便数、時間帯、飛ぶルート、ホバリングの長さにも左右されます。

この2つは、そのまま比べられる数字ではありません。日本では「航空機騒音に係る環境基準」としてLden 57dB/62dBといった値がありますが、これは地域の長期的な音の量についての基準で、「1回の離着陸が57dB以下でなければならない」という意味ではありません。個別の離着陸場にどう当てはめるかは、これから詰めていく部分です。大阪府も、今後のサービスに向けて騒音や低周波音の影響を予測する調査を進めているところです。離着陸場の場所選びに、騒音やダウンウォッシュ(吹き下ろしの風)がどう関わってくるかは、「バーティポートとは?ヘリポート・空港との違いをやさしく解説」(#17)で整理しています。
既存の飛行機でも、音は飛び方で抑えています。空港ごとに「騒音軽減方式」が決まっていて、離着陸はそれに沿って行います。たとえば、通常より高い高度まで上昇を続ける急上昇方式、フラップや脚を出し入れするタイミングの工夫(ディレイド・フラップ進入など)、住宅街を避けて飛ぶ経路などです。空港によっては、夜間や早朝に着陸後のリバース(逆噴射)を控えめにする取り決めもあります。どれも、安全を最優先にしたうえでの工夫です。
訓練のあいだは、これらの方式を使う場面は限られています。エアラインの運航では、こうした飛び方に触れる場面が増えていくと思います。国の資料では、ディレイド・フラップ進入と低フラップ角着陸で、概ね2〜3dB(A)の低減が目安とされています。機体の設計で抑えられる音があり、飛び方で抑えられる音もあります。

▲ 機体の音が同じでも、いつ・どこを・何回飛ぶかで、街での受け止め方が分かれます。
まとめ
この記事の要点
- eVTOLは、同じ距離で比べればヘリより地上に届く音を小さくできる。ただし「無音」でも「一律に何dB静か」でもない。
- 数字は条件とセット。Jobyの巡航45dBAは「500m換算」、離着陸65dBA未満は「経路から100m」。dBAとEPNdBは引き算できない。
- 電動=無音ではない。分散推進や翼端速度で静かにできるが、プロペラの空力音は残る。同じ曝露量なら不快感の差は小さいという研究もある。
- 日本では型式証明の審査に騒音の基準も入り、空飛ぶクルマは型式ごとに定める考え方。ホバリングなどの測り方は、公開資料ではまだ見通せない部分がある。
- 「静か」と「受け入れられる」は別。便数・時間帯・ルート、そして飛び方によっても変わる。
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eVTOL時代ではどう変わるか
操縦・運航する側から見ると、騒音は「性能表の数字」だけでなく、「どう飛ぶか」の問題でもあります。いまの飛行機に空港ごとの騒音軽減方式があるように、eVTOLでも、どのルートを、何時に、どんな高度で飛ぶかという運航の決め方が、街での聞こえ方を左右していきそうです。
「静かに作られた機体を、静かに使う」。その「使い方」の部分は、機体の開発と並んで、これから形になっていくところです。
30秒クイズ・考える問い
30秒クイズ(タップで答えを見る)
**問1** Jobyの「巡航45dBA」は、どんな条件の値? A. 真下100mで測った最大値 B. 高度500m相当に換算した値 C. 機内の音 **答え** B。距離の条件を外すと、比べられなくなります。 **問2** ある資料には「45dBA」、別の資料には「65EPNdB」とあります。差し引いて「20dB静か」と言える? **答え** いいえ。dBAとEPNdBは作りの違う指標なので、そのまま引き算はできません。次に読む・関連記事
- 次に読む:「空飛ぶクルマの仕組みを図解|マルチコプタ・リフト+クルーズ・チルトの違い」(#201)。騒音の前に、機体のタイプそのものを押さえたい方はこちらから。
- 関連:「バーティポートとは?ヘリポート・空港との違いをやさしく解説」(#17)/「大阪万博の空飛ぶクルマ|何が実証され、何が残ったのか」(#215)

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【ご注意】 本記事は学習目的の解説です。騒音の数値・測定条件・規制は、NASA・ICAO・FAA・EASA・国土交通省などの一次資料と、各機体・各地域の最新情報を必ずご確認ください。本記事の内容は2026年10月時点のものです。
