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Contents
今回のポイント:同じ内容でも頼りなく聞こえるとき、中身への疑い・自信のなさ・親しみにくさを分けて考えます。本の声の助言には、今の研究でも言い切れないところがあります。
プレゼンの機会が最近増えて、自分の話し方を一度見直したくなり、この本を手に取りました。パイロットという仕事柄、これまで話し方を気にすることはあまりなく、自分でも意外な一冊です。
『人の心を一瞬でつかむ方法』の声の助言は、同じ説明でも頼りなく聞こえる悩みに、どこまで応えてくれるのでしょうか。それでは、よくある場面から見ていきましょう。
同じ説明なのに頼りなく聞こえる
会議やプレゼンで、こんな経験はないでしょうか。資料は同じ、話す中身もほぼ同じ。それなのに、自分が説明すると相手の反応が鈍く、別の人が同じことを言うとすっと通る。
同じ説明が通らなくても、話の中身を疑われているのか、自信がなさそうに聞こえるのかでは、気になる点が違います。
あるいは、頼りなさではなく、親しみにくさが話を聞いてもらいにくい理由になっているのかもしれません。
むずかしいのは、どれが効いているかで、直す場所がまるで変わること。それなのに、つい「頼りない」のひとことでくくってしまいがちです。
「強さ」と「温かさ」は声に出る
本の土台にあるのは、人は相手を「強さ」と「温かさ」の2つではかっている、という考え方です。強さは能力と意志の力、温かさは親しみや共感のこと。著者のネフィンジャーさんとコフートさんは、この2つが声にもはっきり出ると言います。
「強さ」と「ピッチの低さ」の間には相関性がありますが、「温かさ」と「ピッチの高さ」の間にはそうした結びつきは特にありません。「温かさ」を左右しているのは、「声の抑揚」のほうです。
(『人の心を一瞬でつかむ方法』ネフィンジャー、コフート 訳 熊谷小百合/PART3「声を科学する」)
低めの声は頼もしく、抑揚のある声は親しみやすく聞こえやすい、という整理ですね。声の低さと抑揚は、それぞれ別のものとして読んでおきたいところです。
一方、話すスピードについては、相手にどんな印象を与えるか一概には言えない、と本は書いています(PART3「声を科学する」)。
この本の基本情報
『人の心を一瞬でつかむ方法』
著者:ジョン・ネフィンジャー、マシュー・コフート(訳 熊谷小百合)
出版社・発行:あさ出版・2015年5月(手元は2015年版)
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「言葉は7%」は本当なのか
声の話でよく出てくるのが、「話の中身は7%しか伝わらない」という、あの数字です。本もメラビアンの法則として、視覚55%・聴覚38%・言語7%という内訳を挙げます。ただ、本はそのすぐあとで、こう釘を刺しているんです。
これらの数字は必ずしも正確なわけではありません。(中略)とはいえ、メラビアンの説は大筋では正しいと言えます。
(『人の心を一瞬でつかむ方法』ネフィンジャー、コフート 訳 熊谷小百合/PART3「非言語コミュニケーションを活用する」)
この一文を読んで、私が大事だと思うのは、「この人の話は聞いてみたい」と、いちばん最初に思ってもらうこと。落ち着いてゆっくり話せば、相手に考える時間をつくれます。ただし、その分時間がかかるので、同じ時間で内容を伝えるなら、最初のとっかかりで相手の注意をつかんでおきたいところです。
数字の出どころをたどると、「7-38-55」は、もともと1960年代の2つの実験から来たものです。調べたのは、「言葉の意味と、声や表情が食い違ったとき、人はどちらで相手の気持ちを判断するか」という、限られた場面でした。
本が例に出すのも、しかめっ面をしたまま「お会いできてとてもうれしいです」と言う場面です。言葉と態度がちぐはぐなときの話なんですね。
本も、「大筋では正しい」の中身を、人の「感情」を伝えるのは言葉より非言語の行動だ、と説明しています(同じ節)。ですから「7-38-55」は、話の中身が伝わる割合というより、言葉と声や表情が食い違う場面についての数字として受け取っておきたいところです。
声の助言はどこまで言えるか
本の声の助言を今の研究と照らすと、言えることは助言ごとに違います。
本が勧めているのは、「強さ」を伝えるための低い声です。一方、声と信頼の関係をまとめた2025年のレビューでは、声の高さだけでは結果がそろっていません(Maltezou-Papastylianouほか・2025年)。「強さ」の印象と信頼は、同じものとして比べられません。
低い声が有利だった研究もあれば、高い声が有利だった研究、関係が見られなかった研究も混ざっています。このレビューだけで、本のいう「低い声で強さを伝える」という助言の当否は決められません。ただ、その助言を「低くすれば信頼される」という意味にまで広げることはできない、ということです。
次に「えー」「あのー」といったつなぎ言葉。本の助言はシンプルです。
肝心なのはつなぎ言葉なしでしゃべることではなく、「沈黙」に置き換えることです。
(『人の心を一瞬でつかむ方法』ネフィンジャー、コフート 訳 熊谷小百合/PART3「『つなぎ言葉』と『語尾上げ』に用心!」)
私も、「まあ」「えっと」というつなぎ言葉を言うことがあって、注意されたことがあります。英語で話すときは、「えー」や定冠詞の the を入れてしまいがちです。こうしたつなぎ言葉は、本の言うとおり、沈黙にするほうが一番いいと思っています。
つなぎ言葉を聞いた相手がどう評価するかは、2026年9月に発表された研究が調べています。自然な会話の録音を使った、4つの実験です(LeeとPapafragou・2026年)。
最初の実験では、意外にも、「えー・あのー」にあたる英語の um・uh があっても、話し手の「人としての」能力・信頼・温かさの評価は変わりませんでした。
一方で、ほかの実験では、その会話の中での信頼が下がりました。準備ができていない・確信がなさそうと見られ、次に話す相手としては避けられやすくなっています。英語の um・uh を調べたもので、日本語の「えー」「あのー」そのものではありません。
ここで分けたいのは、「その場で頼りなく聞こえること」と「人としての評価が下がること」です。沈黙に置き換えるほうがよいかどうかは、ここで紹介した結果だけでは分かりません。
つなぎ言葉とともに、本が注意を促しているのが語尾上げです。
語尾上げは、若く、未熟で、自信なさげな人物というレッテルを貼られる原因となるのです。
(『人の心を一瞬でつかむ方法』ネフィンジャー、コフート 訳 熊谷小百合/PART3「『つなぎ言葉』と『語尾上げ』に用心!」)
語尾上げそのものは、ここで取り上げた2つの研究の対象ではなく、本のこの言い切りが今も当てはまるかは、この記事では確かめられていません。
声から人の中身までは読めない
低い声や抑揚でできるのは、あくまで「頼りがいがありそう」「親しみやすそう」という印象づくりです。その人が実際に信頼できるかどうかとは、別の話になります。
声が低いから中身がある、語尾が上がるから頼りない。そう結びつけてしまうと、今度はこちらが相手を声だけで決めつけることになってしまいます。
本が声の使い方で大切にしているのは、話す中身や表情、しぐさとの「整合性」です。
声を使って「強さ」や「温かさ」を発揮する上で何よりも大切なのは「整合性」です。
(『人の心を一瞬でつかむ方法』ネフィンジャー、コフート 訳 熊谷小百合/PART3「声を科学する」)
声と、話す中身と、表情やしぐさが、同じメッセージを出していること。ここでいう整合性は、その一致のことです。声だけを整えるより、中身や表情とそろっているかを見る、という考え方ですね。
まず自分の声を録音してみる
同じ説明でも頼りなく聞こえる理由を、声だけで決めることはできません。本が目を向けているのは、声の低さや抑揚、つなぎ言葉、語尾です。
つなぎ言葉や語尾上げへの対処として、本が勧めるのは、自分のスピーチを録音して聞くことです。
これらを一掃するための一番手っ取り早い方法は、自分のありのままのスピーチを録音し、それを聞いてみることです。
(『人の心を一瞬でつかむ方法』ネフィンジャー、コフート 訳 熊谷小百合/PART3「『つなぎ言葉』と『語尾上げ』に用心!」)
録音して聞く方法の効果は、ここで紹介した研究からは分かりません。
声だけで伝える場面は、パイロットの仕事にもあります。私の場合、機内アナウンスや管制とのやり取りでは、まず決まった言い方をしっかり守り、必要なぶんだけ小さく整えます。
アナウンスなら、長くなりすぎず、曖昧に言わず、少し声を低くして話す。
この記事の結論
まずは、次に人前で話す機会を一度だけ録音して、聞き返してみてください。つなぎ言葉や語尾など、自分の話し方のくせを確かめるところから始められます。
なお、姿勢を変えると声の出方も変わる、という話が本の別の節にあります。「じっと座ったままの姿勢では、力のある声は出せません」(PART3「対話の主導権を握っているのは誰か?」)という一節です。
人との関係については、『人間を磨く』の記事で、自分の非を認めることや、ぶつかったあとの向き合い方を取り上げています。
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