航空身体検査の主な検査項目|視力・心電図・脳波・聴力の基準と準備のコツ

航空身体検査の主な検査項目|視力・心電図・脳波・聴力の基準と準備のコツ

この記事で分かること

対象 パイロットを目指す高校生〜大学生・訓練生
難易度 ★★☆☆☆(はじめての人向け)
所要時間 約7分
読むと分かること 航空身体検査で見られる主な項目と基準/「遺伝で決まる所」と「努力で変えられる所」の線引き/受検前にできる準備

はじめに

「パイロットになりたい。でも、身体検査で引っかかったらどうしよう」——視力や持病のことを調べ始めると、そんな不安が頭をよぎることがあります。調べれば調べるほど、かえって気が重くなってくる。そんな感覚に、心当たりはないでしょうか。

検索すると、基準の数字だけが先に目に入ったり、「〜なら無理」という強い体験談にぶつかったりします。でも、その数字が何を意味するのか、例外や確認の手順があるのかまでは、意外と見えにくいものです。

そこで手がかりになるのが、「この検査で実際に何を見られるのか」「基準の数字は何を意味するのか」、そして「生まれ持った部分」と「これからの努力で変えられる部分」を分けて知ることです。ここが整理できると、ぼんやりした不安を「確認すること」と「今できること」に分けて考えやすくなります。

私自身、航空身体検査——現場ではみんな「身検(しんけん)」と呼んでいます——を受ける前は、食事や運動に気を配っていました。身検は初回と更新とで見られる項目が違っていて、初回のほうが項目が多い。だから、受検が近づいてから慌てないように、ふだんの生活を大きく崩さずにおくくらいがちょうどいいと思います。その具体的な中身を、これから一緒に見ていきます。

スカイ先生
スカイ先生
身検は、落とすための試験ではありません。安全に飛び続けるために、確認しておきたい点を見つける場なんです。

結論(先に一言)

身検は、進路に関わる以上、「通れるかどうか」がどうしても気になる検査です。それでも、制度が見ているのは誰かを落とすことではなく、これから長く安全に飛び続けられる状態かどうか。遺伝で決まる項目もありますが、生活習慣で改善しやすい項目もあります。だから、古い情報や数字だけで決めてしまわず、いまの基準を正しく知って早めに確認していくことが大切です。

それと、視力のこと。以前は眼鏡をかけていても裸眼視力に下限があり、それだけで可能性を閉じてしまう人もいました。でも今は、矯正した状態で基準を満たせるかで見られます。昔の基準のイメージだけで「自分は無理だ」と判断してしまう前に、いまの基準で自分がどうなのかを、眼科や指定医で確かめてみてください。

主な検査項目をひと目で|視力・色覚・心電図・脳波・聴力

第一種航空身体検査(事業用・定期運送用などを目指す人が対象)で見られる主な項目を、表にまとめました。

項目 何を見るか 基準の目安(第1種)
遠見視力 遠くの計器・外の景色が見えるか 各眼0.7以上・両眼1.0以上(裸眼または矯正)
中間視力(80cm) 計器パネルの距離が見えるか 各眼0.2以上
近見視力(30〜50cm) 手元の資料・チャートが読めるか 各眼0.5以上
色覚 信号灯・計器の色を見分けられるか 航空業務に支障を来す色覚異常がないこと(初回に石原表)
聴力 無線・警報音を聞き取れるか 500・1,000・2,000Hzで35dB以下、3,000Hzで50dB以下
心電図 心臓に急な不調のリスクがないか 初回・30歳到達後・30代は2年ごと・40歳以降は毎年
脳波 てんかんなど発作のリスクがないか 初回・頭部に衝撃を受けた後・診断上必要なとき

この表は、数字を覚えるためというより、自分が何を確認すればいいかを見るためのものです。押さえておきたいのは、視力は眼鏡やコンタクトでの矯正が認められていること(レンズの度数は±8ジオプトリー以内、常用眼鏡の使用と予備の携帯が条件になります)、それと心電図と脳波では「受ける時期」の考え方が違うことです。心電図は年齢に応じて周期的に、脳波は年齢ではなく必要に応じて、というイメージですね。

なお、これらは国土交通省航空局の「航空身体検査マニュアル」(2025年6月1日適用版)にもとづく整理です。基準は改定されることがあるので、受検が近づいたら最新版を確認しておくと安心です。

補足:数字に少し届かなくても「大臣判定」という道がある

それから、もし表の数字に少し届かなくても、それだけで道が閉ざされるわけではありません。日本には「大臣判定」という仕組みがあって、経過観察の結果を定期的に報告することなどを条件に、国土交通大臣が「運航に支障なし」と認めれば、基準に適合したものとみなしてもらえる道もあります(航空法施行規則61条の2)。実際、私の知り合いにも、はじめは第一種が難しくて、まず第二種を取って実績を積み、あらためて第一種に挑戦して大臣判定を受け、いまも飛んでいる人がいます。国によって基準の考え方も違いますしね。だから、マニュアルの数字だけを見て早々にあきらめてしまうのは、やっぱりもったいないんです。

スカイ先生
スカイ先生
基準の数字にはちゃんと意味があります。ただ、数字だけを見て自分で合否を決めてしまわないこと。何を確かめるための基準なのかまで見ると、次にやることが見えてきます。

遺伝で決まる項目/努力で変えられる項目

検査項目を前にすると、「自分は生まれつきここが弱いから、もうダメかも」と感じてしまいがちです。でも実務では、項目を「生まれ持った要素」「生活習慣で変えられる要素」の2つに分けて考えると、ぐっと見通しがよくなります。

航空身体検査の項目を「変えにくい素質(色覚・視力の素質・先天的な傾向)」と「生活習慣で整えやすい項目(血圧・体重・睡眠・血液検査)」の左右2つに分けた黒板図。下段に素質も即アウトではないと補足

▲ 素質と生活習慣に分けて見ると、いまから準備できる項目が見えてくる。素質の項目も即アウトではない。

たとえば色覚や視力の「素質」は、生まれ持った部分が大きく、自分の努力だけで大きく変えるのは難しい領域です。一方で、血圧・体重・睡眠、そして血液検査の数値などは、日々の生活習慣でかなり動かせます

ここで、私自身の話を少しだけ。

スカイ先生
スカイ先生
私の場合は、もともと尿酸値が高めの体質でした。だから身検の前には、血液検査だけは先に受けておいて、食事や水分の取り方で直せるところに手を打っておいたんです。そのひと手間で、余裕をもって基準に収まりました。
西風
西風
じゃあ、生まれつきだと思っていた数値でも、準備で間に合うことがあるんですね。

そうなんです。体質そのものは変わらなくても、検査値の出方には生活習慣が影響することがあります。この違いを知っておくと、準備の方向を決めやすくなります。

視力についても、「悪いと即アウト」というイメージが強いですが、矯正で基準を満たせば認められます(条件はあります)。近視矯正手術のICLやレーシックも、自動的に不合格と決まっているわけではありません。所定の資料をそろえて、国土交通大臣の判定などで個別に評価される仕組みです。だからこそ、手術やコンタクトを考えている人は、契約や手術の前に、指定航空身体検査医へ相談しておくのが安全です。

気になることがあるなら、一人で検索を続けて結論を出すより、自分で見直せる部分と、指定医に確認すべき部分を分けてみてください。それだけで、次にやることがはっきりしてきます。

モデルケースで考える「自分ならどう準備する?」

最後に、3人のモデルケースで「自分ならどう動くか」を一緒に考えてみます。(登場人物は架空です)

暁さん(高3・視力が心配)
小さいころから視力が悪く、「パイロットは無理かも」と感じていました。矯正視力で見てもらえると知っても、自分が当てはまるかまでは分かりません。そこでまず、眼科で自分の度数と目の状態を確かめることにしました。

暁
まず、自分がいまどうなのかを知るところからなんですね。

西風さん(大学生・家族に生活習慣病)
家族に生活習慣病があり、血液検査の数値が気になっています。身体検査は訓練が始まってからも続くので、受検直前だけ頑張るより、ふだんの睡眠・食事・体重を無理なく続けられる形にしておこう、と考えました。

南雲さん(健康で、検査の中身をよく知らなかった)
体調に問題がなく、健康診断と同じようなものだと思っていました。でも初回はふだんの健診より確認項目が多いと知り、早めに一度、指定医に相談してみることにしました。

3人とも、動き方は違っても、はじめの一歩は「自分がいまどこにいるか」を確かめること。それだけでも、ずいぶん気持ちが軽くなります。

ここで、私の失敗も一つだけ。実は一番最初の身検のとき、前日に風邪をひいてしまって、検査とは関係のないところで無駄にそわそわしてしまいました。だからこそ思うのは、前日や当日に特別なことをするより、いつもに近い食事と休養で受けるほうが、体調の変化も読みやすいということ。風邪や寝不足など気になることがあれば、無理に受けず、事前に指定医へ相談してみてください。

スカイ先生
スカイ先生
気になることは、受検直前まで一人で抱えないこと。自分で見直せることと、指定医に確かめることを分けておくと、当日に慌てずにすみます。

その「どこで・誰に確認するか」も、先に知っておくと動きやすくなります。航空身体検査は近所の内科ではなく、国が指定した指定航空身体検査医・指定機関で受けます。一覧は国土交通省航空局のページで公開されていて、住んでいる地域から通える所を探せます(出典:国土交通省「航空従事者の医学適性及び航空身体検査証明」 https://www.mlit.go.jp/koku/15_bf_000743.html )。基準そのものは同省の「航空身体検査基準」が一次情報で、読者のあいだでは航空医学研究センター(aeromedical.or.jp)の基準ページもよく共有されています。持病や服薬、手術歴が気になる人ほど、ネットの体験談だけで「自分はムリ」と決めないこと。同じ病名でも、症状の経過や治療内容、そろえた資料によって見られ方は変わります。まずは基準に目を通して、気になることは指定医に相談してください。

3人のうちに自分と近いところがあれば、その項目だけでも確かめてみてください。視力なら眼科、持病や服薬なら指定医、生活習慣ならふだんの健診結果から。全部を一度に、と気負わなくて大丈夫です。

まとめ

要点だけ、もう一度まとめておきます。

  • 主な項目は視力・色覚・心電図・脳波・聴力。数字は自分で合否を決めるためではなく、何を確認する基準かまで見るのが大事です。
  • 項目は「生まれ持った要素」と「生活習慣で変えられる要素」に分けて考えると見通しがよくなります。
  • 視力の矯正やICL・レーシックは、自動的にアウトではありません。数字だけで自己判定せず、現行基準で確認を。
  • 初回の検査は、更新時より確認項目が多いことがあります。進路が具体化してから慌てないよう、気になる項目は早めに確認しておくと安心です。
  • 持病や服薬が気になるときは、ネットの体験談で結論を出さず、指定医に個別の状況を相談するのが確実です。

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eVTOL時代ではどう変わるか

将来、操縦の形が変わっても、「安全に業務を行える心身の状態かを確認する」という考え方そのものは、簡単にはなくなりません。実際、身体検査の基準はこれまでも時代に合わせて改定されてきました。

ただ、いま進路を考えるなら、使えるのは現行の基準です。基準が変わるのを待つより、今の制度で自分に必要な確認をしておくほうが確実です。

30秒クイズ・考える問い

答えを見る前に、少し考えてみてください。

Q1. 視力が悪くても、眼鏡やコンタクトで基準を満たせばパイロットになれる。〇か×か?
答えを見る:〇。多くの場合、矯正で基準を満たせば認められます。ただし、常用眼鏡の使用と予備の携帯などの条件が付きます。

Q2. 脳波検査は、40歳になったら毎年受けることになっている。〇か×か?
答えを見る:×。毎年になるのは心電図(40歳以降)です。脳波は年齢で定期的に、ではなく、初回・頭部に衝撃を受けた後・診断上必要なときに行います。心電図と脳波は受けるタイミングの考え方が違うので、表を見返すときはこの違いだけ押さえておけば十分です。

考える問い:あなたが「今日から始められる準備」は何でしょう? 一つだけ挙げてみてください。

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身体検査は、パイロットへの入口であると同時に、飛び続けるあいだも自分の状態を確かめていく仕組みです。全体像とあわせて、気になる項目から少しずつ確かめていきましょう。

スカイ先生(朝霧)プロフィール

本ブログは、10年間のパイロット経験を積み重ねてきた筆者が、「誰でも飛べる」をモットーに将来パイロットになりたい学生に向けて発信しています。

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